――菜々子のその後の選択や決断は、ぜひ本書で確かめてもらうとして、菜々子が自らの足で前に踏み出そうとする姿には心を揺さぶられるものがあります。一方のジヒョンも、日本で思いがけない事実に直面します。それでも、彼女なりに懸命に乗り越えようとする姿が描かれています。

 

――精子が卵子にたどりつき、両親のDNAが組み合わさることで、新たにひとつの命が誕生します。学校の授業で学ぶことではあるものの、決して当たり前のことではなく、そうならないことも少なくありません。だからこそ、生殖医療が発展してきたともいえます。

谷村:この世に生まれてきたこと自体が奇跡、とはよく言われることで、そんなことを口にすると笑われるかもしれないけど、つくづくそうだし、それはすごいことなんだと思いました。人との出会いや関わり合いだって、いろんな奇跡をかいくぐった上でのこと。私自身、この小説を書いていて、その尊さに改めて気付かされました。

 

<作品紹介>
『過怠』
谷村志穂/著
定価:2090円

親子とは、なんであろうか。誕生とは、どの瞬間をさすか。なぜ多くの夫婦が、実子に拘るのか。養子ではいけないのか。子とは、両親の遺伝子を運ぶ船であり、親が子を助けるのは、自らの遺伝子を載せた方舟を無事に船出させるためだ。そうとまで言い切る学者もいる。自分の犯した罪を忘れたいがためなのか、この世に産声をあげた子らは、すべからく何れかの親を持つ天からの贈り物である、と今ここにいる老人は信じます。――本文より


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問い合わせ先/
トレメッツォ tel. 03-5464-1158
 


撮影/市谷明恵
ヘア&メイク/森野友香子(ペール)
取材・文/吉川明子
構成/坂口彩