3位:『silent』

脚本の巧さに涙、涙...僕の心に突き刺さった傑作ドラマ5【エンタメベスト2022】_img0
『silent』(フジテレビ系)は、TVerFODにて配信中。いずれも最新放送回は一定期間無料。

『silent』が、日本のドラマのつくり方を変える

8年ぶりに再会した、かつて好きだった人は耳が聞こえなくなっていた。そんなイントロダクションから始まる、せつなくてあたたかい感涙確率200%のラブストーリーが『silent』です。記録連発の見逃し再生数や相次ぐ世界トレンド1位など、「話題騒然」というお決まりのキャッチフレーズがこれだけ実感値を持って使えたのは本当に久しぶりと思うほど世間の話題をさらった作品となりました。

 

「好きな人がいる。別れたい」というLINEに込められた真意だったり、「キラキラ」と「ぽわぽわ」という2つの擬態語で表した恋の違いだったり、「プレゼントを使い回された気持ち」に代表される的確な言語化力だったり、本作が連ドラデビューとなる新人作家・生方美久の巧みな台詞に心は撃ち抜かれっぱなし。

しかも、これだけ強い言葉の力を持ちながらも、大事なことは台詞で語らないのが生方脚本の真髄。スピッツの楽曲やポニーテール、ハンドバッグに口が開いたリュックなど、いくつものモチーフにキャラクターの気持ちを代弁させることで、視聴者を釘付け。物語の展開そのものはスローリーなのに、移り気な視聴者を決してながら見させることなく、作品世界に没入させました。

さらに、そんな生方脚本の余白を汲み取り、音をより際立てることで繊細な世界観をつくり上げた風間太樹らディレクター陣、観る者のハートのいちばん柔らかい部分を鍵盤でなぞるような得田真裕のサントラなど、ため息の出るようなスタッフワークも『silent』の陶酔感の理由のひとつ。そこに、川口春奈、目黒蓮、鈴鹿央士、夏帆、風間俊介、篠原涼子らこの人しか考えられないというキャスティングが揃ったことで、不純物の一切ないラブストーリーでありながら、全員が主役の群像劇へと昇華。

『silent』以前と以降でドラマのつくり方そのものが変わる。まさにドラマ史に残るエポックメイキング的な作品となりました。