写真:Shutterstock

皆さんは、“ネクタイゾーン”という言葉はご存知ですか? 私は「山手線で心肺停止」から蘇った後に知りましたが、ネクタイをして隠れる範囲のこと。異変があれば心臓の病気を疑ってほしいのです。基礎疾患がなく、健康診断でも異常がなく、家族に心疾患を持つ人もいなかった。その上、心臓は左側にあるとの思い込みで、痛みを放置し、私は心肺停止に至ってしまいました。

今年の夏、気温が急上昇した頃、明け方に例の胸の痛みがやってきて、ニトログリセリンを舌下することが増えました。にわかに不安になり、すぐに主治医の遠藤彩佳先生のところに駆け込みました。さすがに異変を感じたら迷わず病院へ行くことは学習しました。これぞまさに怪我の功名です(苦笑)。

 

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さて、最近急に寒くなりましたが、冬になると心疾患が増える印象があります。そう言えば、私が冠攣縮性狭心症で倒れたのも11月。調べてみると少し古いデータですがやはり12月、1月は心疾患で亡くなる方が男女ともに多いことは明らかです。

出典:平成16年 人口動態統計の年間推計 - 厚生労働省


たったひとつしかない自分の大切な心臓。無事に年を越して、来年もしっかり動いてもらうために、この時期に気をつけることを遠藤先生に教えてもらいました。

遠藤 彩佳先生 
済生会中央病院・循環器内科・副医長
日本内科学会総合内科専門医・指導医、日本循環器学会専門医、日本心血管インターベンション治療学会専門医

※イラスト画・上野りゅうじん
 


冬の寒さがギュっと血管を締めつける


「心臓にとっては、急に暑くなるのも寒くなるのもよくありません。強い寒冷刺激で血管が収縮し、暖房の効いた部屋に戻ると一気に緩みます。寒暖差が激しいと、血圧は急上昇、心拍数も上がり、心臓への負荷を増大させます。また血管トラブルも起きやすくなるため、脳血管疾患も冬場の死亡率が高いです」

「夜間にトイレ行って」「お風呂上りの脱衣所で」突然倒れて救急搬送されたという話は、冬によく耳にしますよね。私の倒れた「冠攣縮性狭心症」も、やはり冬場が多いのです。

何かできる対策はあるのかを、遠藤先生にお聞きました。
 

<冬の心臓のいたわりポイント>


・寒暖差をあまくみない
血圧&心拍数の急上昇、急降下は、血管や心臓へ負担をかけます。
室内と屋外の気温差から身を守るため、出かける時はしっかり着こんでください。
お風呂に入る時は浴室を暖めたり、脱衣所も温度をあげておく工夫を。
高齢者は特に気をつけて。

・汗をかいてなくても水分補給
冬場はあまり汗をかかないので、水分摂取が少なくなりがちですが、とても乾燥している季節です。入浴前後、朝起きた時には水を飲むようにしましょう。血液をドロドロにしないように。

・年末年始でハメをはずしすぎないように
忘年会&新年会、家族が集まってワイワイが多い時期。
生活習慣が乱れがちになるので要注意。

「特に熊本さんは、お酒の飲み過ぎはくれぐれも気を付けてください! 冠攣縮性狭心症は飲酒で誘発されるので、振り出しに戻っちゃいますよ」と釘を刺されました(苦笑)。
 

女性特有の心疾患~痛みを我慢し受診しない女性たち

 

最近は、ヨーロッパやアメリカの心臓病学会で女性の心疾患についてのヘルスケアに積極的に取り組む流れがあります。

「女性の動脈硬化疾患は男性に比べてはるかに少ないです。それは男性と違い女性ホルモンに守られているからです。また、女性は我慢強く、自分のことを後回しにしがち。診断や治療の機会も少ないため、重症化しやすい傾向があります。心疾患になる比率は男性より低いけれど、罹患した際の死亡率が高いのが問題視され、日本でも女性の心臓のヘルスケアに取り組んでいこうという働きかけが活発になっています」

性差が心血管疾患の発症、進展、予後に与える影響を、医学的、社会的な側面から包括的に検討し、エビデンスを作成することの意義は大きいと遠藤先生。

「女性には、女性特有の症状や心疾患があるのではないかと考えられていますが、そもそも世界的にも女性のデータが少ないという問題点もあり、女性の心疾患に対するヘルスケアに、今注目が集まっています。
女性は家庭に入ってしまうと、定期検診を受けない方が多く、病気が見つかるのが遅れます。欧米のデータでも、女性は心臓に痛みなどの自覚症状があっても、12時間以上我慢してから受診する人が4割以上いるとも言われています。『まさか?』『ストレスかな?』『更年期かな?』、そういった思いも強く、我慢できないほどの辛さになってようやく受診する方も。
医療側も、女性は不定愁訴が多いので、心臓病の診断に至るまでに時間を要することもあり、結果、男性より予後が悪いと考えられています」 

特に女性では、出産、産後、閉経後と、各ライフステージにおいてホルモンバランスも変化していくため、それぞれの時期での心臓の健康問題を考えることも大切です。