高齢出産で緊急帝王切開、それだけだって大変なのにプラスで夫がコロナに感染だなんて。2023年の今だからこそ描けるコロナ禍での出産と育児のしんどさと喜び。その喜びは子どもの成長と、美味しいごはんにあった。そんな子育て+ごはんコミックエッセイ『ハラがへっては育児はできぬ』の1巻が1月16日に発売されました。

コロナ禍で高齢出産をした39歳の大町テラスさん。ただでさえはじめての育児だというのにコロナのあれこれも加わり気を配ることが多いけれども、美味しいご飯で自分の心とお腹に栄養を補給しリフレッシュしています。

 

出産前はお酒大好き・飲み歩き大好きな大町さんでしたが、妊娠出産を経て気づけば2年近くお酒を飲んでない生活に。我が子・ミロちゃんはカワイイし、夫も家事・育児を積極的にやってくれるので恵まれているのですが、赤子がいる食事時ってものはやっぱりドタバタとせわしないもので。夫と子が眠った後が、母のこっそり晩酌タイムなのです。

 

シューマイとノンアルビールで今夜も乾杯! 育児で忙しいからこそ、ひとりでこっそり味わうこんなしあわせ時間って大事。

大町さんが出産した時、世間はコロナ禍。妊娠高血圧症と診断されあれよあれよという間に緊急帝王切開に。情緒不安定になっている産後3日目にして、夫から「PCR検査で陽性になった」という衝撃の連絡が。

 

コロナ禍じゃなければこんな事態にならなかったのに。暗闇で涙を流す大町さんの心を変えたのは、看護師さんが出してくれた豪華なお祝い膳と、ある一言でした。

退院後、夫婦間で意見の相違が生まれる様子も描かれます。夫の感染を体験したことで感染の可能性をわずかでも回避したい大町さんに対し、フリーランスの仕事が無くなることを危惧して緊急事態宣言中も撮影の仕事をしたい夫。

 

夫婦のギスギスした雰囲気を修復してくれたのは⋯⋯やっぱり美味しいもの。しかも作ってくれたのは夫でした。
夫の仕事が無くなったらどうしよう。でも、ちっちゃいミロちゃんが感染するかもしれない。心配がつきない大変な時代をどうにかうまくやっていくしかない、と気持ちを切り替えてくれる食べ物のパワーを感じるエピソードなのです。

ごはんエッセイというだけあって、育児中でもぱぱっとできる簡単で美味しいレシピが登場。思わず真似したくなります。たとえば、冷製ツナトマそうめんの回。

 

このそうめんのほか、ワンオペ時でもすぐできて野菜も摂れるし白米もすすむ汁なし温しゃぶ、離乳食のついでにできちゃう韓国風の鯛のお刺身、ゆで汁でスープも同時に作れるお得なゆで塩豚など、食欲をそそるものばかり!

また、本作はミロちゃんが生まれこの世界に根をおろしていくまでの成長記でもあります。母乳しか飲めなかった頃から、離乳食へ。赤ちゃん用だけど大人と「いっしょのごはん」をミロちゃんに食べさせるシーンでは、コロナ禍で制限される中でも、家族の幸せな一体感がにじみ出ています。

 

読んでいくうち、美味しいごはんと育児を通して、これってコロナ禍での「グラウンディング」を描いているのでは!? と、気づきました。グラウンディングとは、地に足をつける状態で、頭でっかちになりがちな現代人が頭と身体のバランスを取るために行うもの。コロナ禍では、日々飛び交う情報に心をかき乱され、ネガティブな考えが頭を占めることが多くあります。でも、美味しいものを食べることで、ぐっと地に足がついた感覚になり、今ここを生きることを思い出させてくれるのです。

大町さん夫婦もミロちゃんも、食べることで心と身体のバランスが取れて、この世界にグラウンディングしている。食べるとは人間が地に足をつけるための儀式なのです。時間がないからって適当なごはんを食べてちゃいけないな⋯⋯と感じた一冊です。まずどのレシピから作ってみようかな?
 

 

【漫画】『ハラがへっては育児はできぬ』第1〜2話を試し読み!
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『ハラがへっては育児はできぬ』
大町テラス  (著)

食べるのも作るのも大好きな漫画家、大町テラス。コロナ禍での出産と育児はとても大変だけど、大切な家族とおいしいごはんがあれば乗り切れる! 毎日赤ちゃんの世話が忙しくても、おいしいものを食べたい著者が贈る、子育て+グルメエッセイ!! 今日マネしたくなるレシピもたっぷり掲載!!

大町テラス
漫画家。サウナと銭湯が好き。『お熱いのがお好き?』(イースト・プレス)や『まにまに道草』(講談社)、『わたしをサウナに連れてって』(自主出版)が代表作。現在「フォアミセス」(秋田書店)にて『ハラがへっては育児はできぬ』を連載中。
Twitterアカウント: @te_rra_ce


構成/大槻由実子
編集/坂口彩