「別れ」の答え合わせ


「今だから言うけど……拓人さんに急にフラれたとき、本当に落ち込んだのよ、私」

みずから、傷をさらしてみる。判断がつかなかったので、こうなったら長年の逡巡をぶつけてみよう。

「ははは、ごめんな。俺もさ、必死だったのよ。今の嫁が、子どもができました! って。もちろん彩未のほうが好きだったけど、まさか医者が命を粗末にするわけにはいかないだろ。観念して、いろんなことを諦めたんだ」

「いろんな女を、ってことね」

確かに、彼にはそういうところがあった。頭は切れるし、女遊びもひどかったが、根は真面目ながり勉で、女に究極的にひどいことはできない。だから浮気されても、ごめん、ごめん、もうしない、と言われると結局許してしまう。

 

「で、大勢の女を振り切って結婚したんだから、奥様はさぞ素敵な人なんでしょうね?」

噂では同じ病院のナースだときいていた。職場であれば余計に、子どもを盾にすれば結婚を迫れる可能性が高い。しかし彼女も必死だっただろうから、恨むのも筋違いだろう。何よりいくら強引に迫られたとしても、結局は彼はその女を大事に思い、私は捨てられたのだ。何が足りなかったのか、答え合わせをすれば、長年のモヤモヤも成仏するかもしれない。

 

「……それがさ。きいてよ、彩未」

拓人は投げやりな調子で、ポケットからスマホを出した。ウォレットアプリを起動すると、SUICAが出てきて、残額850円と出る。

「これ、俺の今日のこずかい。あと850円。毎朝、2000円だけチャージされるの。嫁から」

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