「自分の好きなものに囲まれたお店をやってみたい!」 そんな夢を膨らませたことはありませんか? でも、物件探しや開店資金の調達、お店をオープンさせてもお客さんが来てくれるかなど、気が休まらないことの連続。結局、妄想だけで終わってしまった、というのはよくある話。BE・LOVEで連載中の『またのお越しを』は、大好きなカフェが閉店してしまい、ショックを受けた女性とそのいとこが、店長の思いを受け継いだお店を作ろうと奮闘する物語。果たして二人は形にすることができるのでしょうか?


お気に入りのお店がある幸せ。でもそのお店は……


都内の会社で事務職として働く山吹枷耶子(やまぶきかやこ)の家には、しばらく前から家に転がり込んできた居候がいました。いとこののえるで、家賃を半年滞納して家を追い出されてしまったのです。仕事をするわけでなし、家賃や生活費を入れるわけでなし、枷耶子の家で野良猫のようにゴロゴロと過ごしています。のえるは小さい頃からなまけもので浪費ばかりで、それでいて人に取り入るのが上手なタイプ。枷耶子はのえるとは正反対で、勤続13年でコツコツと貯金をしている真面目な女性です。

 

自由気ままなのえると同じ部屋にいると気が滅入ってきた枷耶子は出かけることにしますが、そんなことはお構いなしに一緒についてくるのえる。枷耶子が向かったのは、「くくりや」というカフェが併設された和雑貨店でした。作務衣を見につけた若き男性の店長・杜紫(もりむら)は、いつも二人を笑顔で迎えてくれます。この日は目立つところに、杜紫が自ら仕立てた有松絞りの浴衣が飾られていました。有松絞りとは、愛知県名古屋市緑区の有松・鳴海地域でつくられている絞り染めの織物のこと。杜紫の実家がかつて有松で呉服屋を営んでおり、そこで扱っていた有松絞りにひときわ強い思い入れを持っていました。東京で小さなカフェ兼和雑貨店をオープンさせたのも、お茶を飲みながら和布の魅力を知ってもらい、いずれは有松絞りをはじめとした着物も販売するお店に成長させたいと思ってのことでした。

 

枷耶子とのえるが2年前に初めてこの店を訪れたのは、小さい頃によく行った祖母の家を思い出したから。祖母はいつも着物を身に着けていて、かわいい和布をあちこちに飾っていたのでした。

 

ある日、会社での仕事を終えて帰宅途中に「くくりや」の前を通った時に、のえるがお金もないのに店に入り、有松絞りの浴衣を試着させてもらっているのを目撃します。着心地がよくてかわいらしい模様の浴衣を着て、「買ってー」とはしゃぐのえる。杜紫は枷耶子にも試着を勧めてくれましたが、着物を着るなんて子どもの時以来で、のえるのように無邪気になれない枷耶子は「ごめんなさい やっぱりガラじゃないので」と杜紫の申し出を断ります。無理に押し付けることもなく、枷耶子の意思を尊重する杜紫。そして、いつものようにそっと枷耶子が大好きなパンケーキを作ってくれるのでした。

 


忙しさにかまけて、「今度立ち寄ろう」と思っていたら。


その後、しばらく仕事が忙しかった枷耶子は、「くくりや」に顔を出せずにいました。以前から枷耶子とのえる以外の客を見たことがなく、店の前を通り過ぎる時に、杜紫の姿しか見えないことは気になっていました。この日もまた、「次はちゃんと寄っていこう」と思いつつ、店の前を通り過ぎていきます。そんな日が続いていたある日、「くくりや」の近くにある大通りに大手呉服チェーンが手掛ける和風カフェがオープン。賑わいを見せるその店とは対照的に、裏通りにある「くくりや」はますますひっそりとしていったのです。

同時に、「くくりや」自体も少しずつ変わっていきました。こだわりのスイーツの味が落ち、素敵な小物が飾られていたショーウインドウには流行のアニメキャラやゆるキャラのグッズが並ぶようになっていました。そして、枷耶子は意外な場所で杜紫と遭遇します。それはコンビニエンスストアで、杜紫は疲れ切った表情で働いていたのです。その姿を見た枷耶子は、「くくりや」の経営がかなり厳しいことを悟り、気まずさもあり、さらに店から足が遠のいてしまっていました。

 

そんなある日、枷耶子の家に荷物が届きます。中身は「くくりや」にあった有松絞りの浴衣でした。杜紫からの手紙が添えられていて、店を閉店すること、二人が店に通ってくれてうれしかったことが綴られていました。浴衣はそのお礼だというのです。枷耶子とのえるは急いで店に駆けつけますが、店は真っ暗でもう誰もいません。大声で泣きじゃくるのえる。枷耶子も、店の状況が厳しいことを知っていたのに行かなかったことを後悔するのですが、時すでに遅し。呆然としている枷耶子に、のえるは「あたし達がもう一度くくりやを作ったら 杜紫店長 戻ってくるんじゃね!?」ととんでもないことを言い出しました。

 

根が真面目な枷耶子は、好きだった店から足が遠のき、閉店してしまったことに心を痛めていますが、それと、自分たちが杜紫の思いを受け継いだ店を作るのは別の話というか、素人がそんなことをできるはずはありません。また、ただの店長と客という関係性に過ぎなかったのに、踏み込んだ真似はできるはずがないと一蹴します。しかし、いつも話が飛躍してばかりで、後先を何も考えないのえるに、「踏み込んでるじゃん! じゃ なんであの浴衣送ってきたの」と言われ、心が激しく揺さぶられます。

とはいえ、真面目に働いて堅実な人生を歩んでいる枷耶子からすれば、無職で居候で、枷耶子に頼りっぱなしののえるから「店を作ろう」と言われてほいほいと乗るわけがありません。でも、のえるは後先考えずに、杜紫の故郷である有松に、杜紫を探しに行ってしまうなど、彼女の無鉄砲な言動に巻き込まれるうちに、少しずつ心境に変化が訪れることになります。


着物の魅力も再発見! 二人の奮闘やいかに?


こうして物語が進んでいくことになるのですが、漠然と着物が好きというだけの二人は果たして「くくりや」の思いを受け継ぐ店を作ることができるのでしょうか? 物語では、かつては普段着だった着物が、着物=高価と思われるようになり、手が届かないものになっている現状が垣間見えます。その一方で洋小物などと組み合わせてカジュアルに着物を楽しむ人達や、有松絞りを扱う実在の呉服店も登場。また、店を開業するにあたって物件を探す苦労や、いい物件が見つかっても内装費などさまざまなコストがかかる厳しい現実もリアルに描いています。

また、真面目であるがゆえに、心に壁を作りがちな枷耶子の変化も気になるところ。のえるくらいぶっとんだキャラクターに引っ掻き回されるのはかなりの荒療治のような気がしますが……。のえるは自由すぎて、何も考えなさすぎて、正直なところたまにイラっとさせられるところもありますが(家に一銭も入れずに居候し続けているのえるをなんだかんだと受け入れている枷耶子は偉い!)、彼女の純粋な気持ちに気付かされることもたくさんあります。

単行本2巻が1月13日に出たばかりで、1巻、2巻ともに素敵な着物に身を包んだ枷耶子とのえるが表紙を飾っています。物語の随所に出てくる着物や小物類、着こなしも素敵で、着物への興味が刺激されまくり。果たして二人は「くくりや」の思いを受け継ぐことができるのか? そして杜紫の行方は? 大人の女性におすすめの、素敵な冒険譚です。

 

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『またのお越しを』
おざわゆき 講談社

大好きだったカフェが閉店してしまいショックを受ける枷耶子。 なんとかお店を続けようともがいていた店長の意思を受け継ぎ、彼女は従妹ののえると一緒にお店を作ることを決意する。 しかし、それは苦難の始まりで…?