ヘイトスラングを口にする父、テレビの報道番組に毒づき続ける父、右傾したYouTubeチャンネルを垂れ流す父……老いて「ネット右翼」になった父に心を閉ざした、文筆家の鈴木大介さん。対話の回復を拒んだまま、末期がんの父を看取ってしまった鈴木さんは、苦悩し、煩悶します。
父の死後、自身の「ネット右翼」に対する認識を検証し、母、姉、叔父(父の弟)、姪、父の友人の証言を集めていくうちに、徐々に父の実像がリアリティを伴って見えてきた結果、父は鈴木さんの思うような「醜いネット右翼」ではなかったこと、そして「父をネット右翼と決めつけていた」ことが判明します。鈴木さんは一体なぜ、「父をネット右翼と決めつけて」しまったのでしょうか?
鈴木さんの著書『ネット右翼になった父』(講談社現代新書)から、鈴木さんが自ら抱えていた「ネット右翼像」へのバイアスに気づく過程を一部抜粋します。
夫婦共働き、フェミニストだったはずの父が晩年「女性蔑視発言」を繰り返した理由>>
鈴木大介 さん
文筆業。1973年千葉県生まれ。主な著書に、若い女性や子どもの貧困問題をテーマとしたルポルタージュ『最貧困女子』(幻冬舎新書)、『ギャングース・ファイル――家のない少年たち』(講談社文庫、漫画化・映画化)や、自身の抱える障害をテーマにした『脳が壊れた』(新潮新書)、互いに障害を抱える夫婦間のパートナーシップを描いた『されど愛しきお妻様』(講談社、漫画化)などがある。2020年、『「脳コワさん」支援ガイド』(医学書院)で、日本医学ジャーナリスト協会賞大賞を受賞。
Twitter:@Dyskens
「ネット右翼=ミソジニストでありチャイルドポルノ肯定者」というバイアス
父の女性蔑視発言について検証をする過程で、僕の中にも新たな、そしてむしろ父の言葉の解釈よりもずっと重要な気づきがあった。それは、ネット右翼に対して、僕の中には「過剰に女性差別主義者と紐づいたイメージ」があり、その点からネット右翼を必要以上に激しい憎悪の対象としていたということだ。
実は父の晩節とは、僕自身がミサンドリー(男性嫌悪)を激しく拗らせていた時期でもあった。
#MeTooムーブメント(社会生活の中で日常的に起きてきた性暴力やハラスメントに対し、「私も被害当事者である」と声を上げる動き)や石川優実さんの#KuToo運動(#MeTooを受け、働く女性が企業からルールとしてハイヒールやパンプスを強要されることに声を上げた日本国内のムーブメント。旗手となった石川優実さんは、2019年、BBCの選出する「100人の女性」のひとりになった)といった、第四波フェミニズムが台頭した2010年代末期。僕の考えるネット右翼像の中に、「フェミサイド(女性であることを理由にした殺人から転じて、SNS上でフェミニストに過剰な攻撃を加えるクラスター)的志向」が明確に加わった。
それはSNS上で、活動的なフェミニストに批判的で、論争を吹っ掛けたりヘイトや嫌がらせを吐いたりするミソジニー(女性嫌悪・蔑視)なアカウントを辿ると、同様に中韓へのヘイトや社会的弱者に対して攻撃的な発言を繰り返していたり、さらに伝統的家族観への肯定発言が目立ったり、フォロー先に保守系文化人が並んでいたりすることが多かったからだ。
実際、こうして原稿を整理している今、Twitterで「反日 フェミ」を検索すると、数時間前の投稿で「あの~なんでフェミって揃いも揃って『反日』なんでしょうね」という笑えるぐらいネット右翼的な投稿を確認。ネット右翼とミソジニスト(女性蔑視主義者)、ネット右翼とアンチフェミの紐づけは、あながち間違いではないようにも感じる。
だが、改めて僕自身のこの嫌悪感の原点を手繰ると、それは想像以上に根深く、僕がネット右翼の存在をぼんやり認識し始めた2000年代中盤まで遡ることになる。
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