小咄をひとつ。
何もかもが値上げラッシュのこのご時世、大手企業で働いている人たちはそれなりにお給金アップなんてこともあると思いますが、ただでさえ貧乏暮らしのライターAさんは、こんなんじゃ干上がっちまうってんで、意を決して得意先の社長キシダさんにギャラアップの交渉をすることに。意外なことにキシダさんはあっさりと「わかりました、そうしたら倍増していきましょう!」と応えてくれ、おおおすごい! 言ってみるもんだ! と一安心。
だが、いやまて。あの社長、社内調整も全然せずに適当なこと言うし、言い方曖昧だから、後になって「誤解を与えるような言い方だった」とか言い出すことめっちゃ多いんだよな……と思っていたら、案の定、社長のスポークスマン的存在の副部長キハラが出てきてこう言いました。「うちの社長は『わりと丁寧に相手の文脈にあわせてお答えになるので』。中には『質問者がどういう相手でも、まったく同じ答弁を繰り返す方もいるじゃないですか。そうすると誤解とか齟齬はないけど』、社長は丁寧に説明するから、ちょっとした言葉の違いでそういう誤解がでてきちゃうんですよ」。
長い前振りの末、キハラはさらにこう続けます。「いや、社長は「倍増にしていきましょう」って言っただけで、いつまでにとはいってないんですよ。まあじゃあいつまでに? って聞かれたら答えられないんですけど。もし“あなたが書く原稿の数”が倍増すれば、すぐにギャラは倍増できますよ」。
Aさんはこうした理屈がまったく通らない、説得力のかけらもないことを言う人を、通常は「アホ」と表現しています。でも今回は「表現としてちょっと強すぎるかな」と感じていつもは使用をはばかる「バ〇」という言葉を使っていいんじゃないか。というか、さも「私が言ってることはまっとうですから」みたいな表情で、いけしゃあしゃあとタワゴト抜かすキハラを、今こそ「あんたバ〇なの?」と罵るべき時じゃないか。そんな葛藤の中で、はたと思い至ります。キハラが(そしてキシダが)、最初っから「倍増する気なんてサラサラなかったんだ」ということに。
国会とか内閣官房とか政権とか与党の中の理屈は、まったくもって完全に時空と常識が歪んでいる、一般社会じゃありえないことをお伝えしたいばかりに、一般社会のギャラ交渉風に書いていました。ええそうです、これはカタカナの名前(そのまんまですが)を漢字に、「ギャラ」を「子ども予算」に、「あなたが書く原稿の数」を「出生率」に変えれば、そのまんまこの1週間で起きたこと(衆議院予算委員会→2月21日の報道番組)の再現です。ちなみに『』内の発言は、木原官房副長官が出演した報道番組からの文字起こしです。「同じ答弁繰り返す」ってのは河野太郎さんのことでしょうか。「岸田さんは河野さんより誠実」と言いたいのかもしれませんが、相手の文脈に合わせて適当なこと言う政治家(それも首相)も、誠実どころかそうとうアレだと気づいてほしいものです。
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