「ハニーミルク」というデジタルBL誌をご存知ですか? キャッチコピーはズバリ「癒ししかいらない!」。ストーリー性と胸きゅんを重視し、癒されたい!! というすべての女子に捧げるというコンセプトのデジタル誌です。この中でイチオシなのが、2月5日に最終話が配信され、3月9日に紙の単行本が、3月10日に電子単行本が発売される『椿の花が落ちる頃』。江戸時代の吉原遊郭を舞台にした、美しくて切ないラブストーリーです。
貧しい家族のために、吉原に飛び込もうとする幼い子ども。
時は江戸時代、吉原遊廓の仲之町ではこの日、大勢の見物客で賑わっていました。彼らの目当ては花魁・俵屋の白椿花魁。晴れて吉原一となった白椿花魁が、お供を大勢引き連れて、遊郭を練り歩いていたのです。
艶やかに髪を結い上げ、豪華な衣装に身を包んで一夜の甘美な夢を見せる花魁は、遊郭の中では最高位。吉原には大勢の遊女がいるものの、花魁はほんの一握りしかなれません。美貌はもちろんのこと、教養を備え、芸事にも秀でていることが必須条件で、幼い頃に先輩遊女の身の回りの世話から始まり、将来が有望と目された少女だけが本格的な英才教育を施されるのです。
白椿花魁が吉原に来たのは8年前のこと。貧しい家で借金のカタに売られていく少女が多い中、幼き白椿花魁は、自ら志願して吉原へと飛び込みました。見た目は美しいのですが、実は少女ではなく、少年。その名も宗太。貧しい家族を食べさせてやりたいという一心で、大見世(吉原で最高ランクの妓楼)「椿屋」の女将に頼み込みます。とはいえ、吉原は遊女が男性に春を売る場所。当然のことながら、男は遊女にはなれません。
追い出されそうになったその時、「椿屋」の楼主(妓楼の経営者)が、宗太の根性と心意気を買って禿(花魁の身の回りの世話をする見習い)として受け入れることを決めます。ただし、条件がありました。それは、「年季明け(年季が満了し、遊女を卒業すること)まで絶対に男とバレない」「吉原一の花魁になる」ということでした。
男に指一本触れさせず、花魁まで上り詰めた少年。
吉原一の花魁になるなんて、少女であっても困難なこと。それでも宗太は厳しい見習い期間や修行に耐え、水揚げ(遊女が初めて客に接し、性の初体験をすること)をしないまま花魁になってみせたのです。男なので水揚げしようがないのですが、美貌や教養を兼ね備え、それでいてどの男にもなびかず、誰の手も取らないところが、逆に客の男たちを熱中させていました。しかし、花魁になったことは、白椿花魁にとってはスタートラインに立ったばかり、年季明けまで男とバレずに花魁を演じ続けなくてはなりません。
そんなある日、江戸で大人気の美人画絵師・雪川龍春(ゆきかわたつはる)が「椿屋」を訪れます。写真のない当時、絵師たちが描いた遊女の絵はブロマイドのようなもので、江戸の人々の間で大人気だったのです。龍春がここに来たのも、吉原一の白椿花魁を描くため。大柄で片目をサラシで隠した龍春はかなり目立つ風貌でした。対面した白椿花魁も一瞬怯んだものの、堂々とした振る舞いで、「うんと美しく描いておくんなんし」と向き合います。
しかし、龍春は「美しくない」と一言。美人画絵師として、さまざまな女の姿を描いてきた龍春は、白椿花魁をひと目で男と見破ってしまったのです。とっとと帰ろうとする龍春に追いすがる白椿花魁。幼い頃に男であることを隠し通して年季明けするという楼主との約束があるため、自分が男であることを知られるわけにはいきません。
万が一、吉原一の花魁が男とバレたら大変な騒ぎになるため、なんとか龍春を口止めしようと画策する白椿花魁。でも、その一方で、龍春に惹かれていく自分もいて――。
美しくて切ない愛の物語の行方は?
吉原遊廓は華やかな場所として名高い一方で、親に売られてきた貧しい娘や、親も分からずに生まれ落ちた娘がいたり、厳しい場所であるがゆえに病で命を落とす娘がいたりと、辛く悲しい部分も内包しています。それだけに、歌舞伎や落語などで、さまざまな物語の舞台として描かれてきました。
家族のために身ひとつで吉原に飛び込んだひとりの少年と、美人画のためにすべてを捧げる天才絵師が出会い、始まる物語。二人には、人に決して言えない過去があり、だからこそ、次第にお互いが気になる存在になっていきます。
とても繊細で美麗なタッチで描かれる、江戸時代の儚い恋の物語。単行本1巻分の短い作品なのですが、何度も読み返したくなる魅力的なお話です。もちろん彼らの美しさに癒やされるのですが、それだけではないさまざまな感情が織り込まれており、純粋な愛の形にドキドキしてしまうはず。BL初心者にもぜひ読んでほしい作品です!
【漫画】『椿の花が落ちる頃』第1話を試し読み!
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『椿の花が落ちる頃』
占地 講談社
舞台は江戸吉原
絵師×花魁、狂い咲いた秘密の恋
時は江戸時代後期。
家族を食わせるために年季明けまで男とばれないことを条件として吉原遊郭の大見世・椿屋に買われた宗太。
10年後、彼は奇跡的に水揚げもせぬまま、絶世の美しさを誇る白椿花魁として吉原中に名を轟かせていた。
しかし、白椿花魁を描くために椿屋を訪れた美人画絵師・龍春に一瞬で男であることを見抜かれてしまい…!?
本当の名を捨てて女として生きる白椿と、人生を捨ててまで美人画に執着する龍春。
やがて互いの熱を求め合うふたり、廓の中で「愛」は生まれるのかーー?
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