ワイドショーや週刊誌を賑わせる不倫報道。そういえば、不倫には各々の立場を表現する隠語があるってご存知でしたか? 不倫された妻は“サレ妻”。そして、独身で不倫をしている女性のことを“毒プリ”というそうです。サレ妻はなんとなくわかりますが、毒プリは独身の独と不倫をプリンと呼んでかけあわせているのだとか。今回紹介する『恋と地獄』とは、そんな毒プリの末路を描いた「堕ちなばもろとも」と、サレ妻が復讐に目覚める「完膚なきまで」の2編からなるオムニバス漫画です。
愛は300万円で買える?毒プリの恋
不倫による離婚慰謝料の相場は100〜300万円。ということは、300万円さえあればどんな愛も手に入れられるのでは? そんなことを考えながら、今夜も不倫相手と肌を重ねる27歳の派遣社員・リノ。
そんな彼女の不倫相手は既婚者で子持ちのハルオ。同じ会社で企画部の主任として働く彼から声をかけられたことをきっかけに、ズルズルと社内不倫の関係を続けている……まさに“毒プリ”な主人公です。
不倫相手から本命に昇格する可能性は99%ない、そう頭では理解しているのに残りの1%を期待してしまうほどハルオに心酔しているリノ。最近では誘われるのも急だし、事後も冷たい……そんな完全に都合のいい女に成り果ててもやっぱり「大好き」が止まりません。
「アレを好きだった自分を殺したい」覚醒する瞬間
ですが、このズブズブの不倫関係も終わりを迎える日がやってきます。それも、ハルオからの一方的な別れによって。
ハルオのあまりにも容赦ない下衆っぷりに、さて、リノはどんな怒りを見せてくれるのだろうか……と、もはや不倫漫画の醍醐味とも言えるド派手な復讐のターンを期待してしまいますが、彼女の場合は“無”。ハルオに怒りをぶつけるわけでも縋り付くこともなく、ただただ喪失感に苛まれるのです。
このまま心にぽっかりと穴が空いたような静寂感が続くのかと思いきや、ハルオの更なる裏の顔を知ってしまった瞬間にリノは“覚醒”します。
覚醒とは、例えるならば少年漫画の主人公が急激な怒りや悲しみを経験したことをきっかけに、心身ともに別人のように変化していくあの瞬間。リノの場合は、身も心も溺れていた不倫から目覚めると同時に「アレを好きだった自分を殺したい」と思うほどに深い怒りと憎しみの感情を滾らせていくのです。
ゾッとするほどに静かな“怒り”
罵詈雑言を浴びせたり、泣き喚いたり……深い怒りや憎しみが表に出た時ってそういうものだと『恋と地獄』を読むまでは思っていました。けれど、リノはそんなことを一切せずに、冒頭のページと変わらぬ微笑みを浮かべ、だけどどこか空虚な雰囲気を漂わせながら、ハルオへ社会的制裁を加えるための準備に取り掛かるのです。
そう、この作品は怒りの描写がゾッとするほどに静か。いやになるほどの静寂に包まれながら、ついこの間まで愛してやまなかった相手を地獄へと突き落としていくリノ。その姿は、不倫のあまりにも酷な代償、そして愛と憎しみは地続きであることを教えてくれます。
毒プリの末路を描いた「堕ちなばもろとも」の後は、サレ妻の物語「完膚なきまで」へと舞台が変わります。実はリノと同じ職場で働き、彼女の不倫騒動の顛末を間近で見ていた女性・シホが主人公。2年以上のレス、加えていつも帰りが遅い夫に対して不信感を募らせるシホですが……。
「堕ちなばもろとも」と同様に、怒りで覚醒し、怖いくらいの静寂に包まれながらも、さらに窒息しそうなほどに荒んだ空気が充満していく「完膚なきまで」。本作でしか体験できない、このジワジワと引き込まれるような人間の暗部にぜひどっぷりと浸かってみてください。
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<作品紹介>
『恋と地獄』
今井 大輔/COMIC ROOM (著)
“立派に生きる”と“死ぬ”の間にはたくさんのだらしない生き方がある――。99%実らないと分かっていても1%にすがりつく既婚者との恋を描いた「堕ちなばもろとも」。一人のサレ妻がジョーカーへと変貌する「完膚なきまで」を収録。恋に落ち、愛に溺れ、地獄に堕ちる電子版超ヒットの恋愛オムニバス。
<作者プロフィール>
今井大輔
漫画家。代表作に『SEED』『ヒル』『古都こと -チヒロのこと-』『こちら、あたためますか?』『セツナフリック』『ヒル・ツー』『パッカ』『ビターコネクト』など。現在は「週刊漫画ゴラク」(日本文芸社)にて『ビターコネクト』、「コミックシーモア」先行配信で『恋と地獄』大好評連載中。
twitter:@dice_k_imai
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