「トランクだけ乗せた列車が行っちゃった!」みたいな感じ


――「VIEW FROM MY WINDOW」(以下、VFMW)は、今では世界の350万人が参加しているとても大きなグループですよね。どのように成長していったのでしょうか。

バーバラ VFMWのアイデアは、ある日曜日に思いつきました。私はグラフィックデザイナーなので翌日の月曜日にはロゴを作り、Facebookにアップしたんです。

コロナ禍の2年間、休みは10日。それでも「自宅の窓からの眺め」を発信し続けるのは、落ち込んだ「誰か」がいるから_img3
私のホームオフィスより。小さな机、小さな窓、そして大きな物語! ――Barbara Duriauさん オランダ・アムステルダム 2020/3/26


スタートは私の友人300人に向けての発信。少しだけ眠って起きたら、もう80通のメッセージが来ていました。2〜3日後には5000、1週間後には5万、そして3週間後には100万と、メッセージがどんどん増えていったんです。

――ものすごいスピードですね!

バーバラ はじめから「きっとうまくいく」とは思っていたけれど、例えるなら「私が駅のトイレに行っていたら、トランクだけ乗せた列車が行っちゃった!」みたいな感じ(笑)。さーっと走り出してしまったので、これはもうやめられなくなったぞって。あまりに私が忙しくしているので、心配した母から「あなた、もう少しこぢんまりやったら?」と言われたのですが、「ノーノーノー、まだまだ大きくなると思うわ」と返しました。

――走り出した“列車”が、早い段階からたくさんの人の拠り所になっているのを実感されていたということですね。

バーバラ 世界中でロックダウンが長引いて、メディアで目にするのは暗いニュースや見ていて悲しい、つらい、そんな写真ばかり。どうしても「感染したらどうしよう」という不安な気持ちに意識が向いてしまいます。そんな中、VFMWはみなさんの息抜きになったのかもしれません。コロナ禍であっても、友達や家族と“いいコミュニケーション”を取れるようなものに携わりたい。多くの人の中でそんな気持ちが強まっていったから、これだけの大所帯になったのだと思います。

 

「人影が消えた街」の風景にショックを受けた


――みなさんからVFMWに投稿される写真に、バーバラさんはどんなことを思っていたのでしょうか。

バーバラ ニューヨークもフィレンツェも、街の通りに人っこ一人いなくて、まるで廃墟か都会の砂漠のようだと感じました。とてもショックな光景です。普段なら観光客の“水上散歩”で賑わうベネチアも、ゴンドラが一隻もいません。

コロナ禍の2年間、休みは10日。それでも「自宅の窓からの眺め」を発信し続けるのは、落ち込んだ「誰か」がいるから_img4

「イタリアのベネチア。わが家の窓から。街は空っぽ。静かで、美しくて、とっても素敵で、そして、寂しい。イタリアのほかの街と同じように、ベネチアの人々は家にこもっていて、外に出るのは食べ物を買いに行くときだけ。鳥や魚が自由を謳歌しています。元気に、安全でいてください。」 ――Sabina Ragainiさん イタリア・ベネチア 2020/3/19


「孤独。」の一言だけが添えられたブラジルからの投稿は、ビルの窓にひとつだけ人影が見えます。その写真には、とても引き込まれました。京都からの窓の景色とブリュッセルからの窓の景色はなんだか色合いが似ていているなと感じたり。だから本では、京都とブリュッセルの写真は見開きで対になっています。

コロナ禍の2年間、休みは10日。それでも「自宅の窓からの眺め」を発信し続けるのは、落ち込んだ「誰か」がいるから_img5
 

――場所は違うのに、見開きにすることで共通点があるように見えます。いくつかそんなページ構成になっていて、「あの時、別の国の誰かと同じような景色を見ていたのかも」と思うことができました。

バーバラ 「本」が素晴らしいのは、人が様々な思いを込めて撮った写真や大切に紡いだ言葉を、いつまでも形に留めておけること。本はこれからの時代も絶対に必要です。VFMWではそんな思いも強くしました。この本をタイムカプセルに入れて、今の子どもたちが将来大きくなった時に、読んでもらえたらとも考えています。