こんにちは、ブランディングディレクター行方ひさこです。

2月のことになりますが、毎回開催を楽しみにしているガストロノミーイベント「USEUM SAGA(ユージアム サガ)」に出席するため佐賀県に行ってきました。

佐賀県は、ここ数年で1番足を運んでいる県です。

友人と福岡にお寿司を食べに行った時に、その店で大好きな唐津焼の作家さんの器が使われていました。それを見て、「こんなに近くにいるんだから!」と、いても立ってもいられなくなり、アポをとって次の日作家さんを訪ねたことが、私のうつわ愛を助長させたように思います。そこからは、唐津焼だけでなく有田や伊万里などの器の産地に足を運び、さまざまな作家さんや窯元を訪れ、たくさんの勉強をさせていただいてきました。

でも、私にとって佐賀県は、まだ全く足りていません!

何度も訪れたい景色やお店もありますし、まだ拝見したことがない作家さんもいます。好きな作家さんのところへは毎月でも足を運びたいくらいです。訪れれば訪れるほど、沼にはまっていく、そんな感じです。

焼き物の名産地といえば、佐賀県! 日本における磁器の発祥地は有田・伊万里ですし、唐津焼や鍋島焼といった全国的に名前が知られている焼き物の産地がぎゅっと詰まっています。東京では、有田焼や唐津焼が何県にあるのか知らない人が多いなという印象を受けますが、有田焼や唐津焼を聞いたことがないという人はあまりいないように思います。

そんな素晴らしい器の産地を持ち、それらにより日本茶や日本酒などの食文化も根付いている佐賀県だからこそのイベント、「USEUM SAGA」の素晴らしさをご紹介させてください。

 

佐賀の料理人たちが食材や器との出会いにより感性を磨いていく「サガマリアージュ」

 

「サガマリアージュ」というプロジェクトの一環として開催されている、期間限定のプレミアムガストロノミーイベントです。

「ガストロノミー」は、フランス語で美食を意味する言葉。贅沢又は先鋭的な料理を調理して味わうことだけを指すと理解されがちだが、それらは分野の一部に過ぎません。ただのグルメではなく、「文化と料理の関係を考察すること」という意味も持ちます。単純においしいだけでなく、料理を中心として芸術、歴史、科学、社会学などさまざまな文化的要素を考える総合的な学問として、文化と料理の関係を考察すること、とされています。その土地土地の運化や歴史などの背景から、メニュー構成の哲学まで織り込んで料理を提供するレストランのことを「ガストロノミーレストラン」と呼ぶのです。

近年では、日本国内でもすばらしいガストロノミーレストランやガストロノミーイベントが次々と誕生していますが、「USEUM SAGA」は、佐賀県内の料理人が地元の生産者や器の作り手などと交流を深め、食材や器、文化への理解を深めていき、自身の感性などを磨いていった先にあるアウトプットのイベントとして行われていて、文化的にも奥深いものです。

「USEUM SAGA」は、美術館に飾るような美しい器で佐賀の美食を楽しむという意味で名付けられていますが、毎回他県からシェフやパティシエ、ソムリエを招待し、佐賀の料理人や作家とのコラボレーションでどんな化学変化が生まれるか、どんな時間になるのかが最大の楽しみです。

見るだけでも心が踊る、過去のレポートはこちら

第4回は、岩手県「とおの屋 要」とのコラボレーション

 

さて、今年2月の「USEUM SAGA」のコラボレーションは、以前より訪れてみたいと思っていた岩手県「とおの屋 要」だったので、かなり楽しみにしていました。

「とおの屋 要」とは、岩手県遠野市にある1日1組限定の古民家オーベルジュ。100年続く民宿「とおの」を佐々木要太郎さんが4代目として引き継ぎました。

この遠野という場所は、古くからどぶろく文化が根付いている場所。佐々木さんは、独学で料理を学ぶ傍ら、自身が栽培する無農薬のお米を使用したどぶろく作りを始め、10年の試行錯誤を経て独自のエレガントなどぶろくを作り出しました。

どぶろくだけでなく、もともと遠野の暮らしの一部であった発酵や熟成という調理法を深く掘り下げ、微生物と対話をしながら醸される発酵料理の数々は、たくさんの美食家たちが惹きつけられています。自然栽培で作られる野菜たちとも真剣に向き合い、農家、料理人、醸造家という3つの顔全てを注ぎ込んで表現するという唯一無二の存在です。

左から岩手県「とおのや 要」の佐々木要太郎さん、佐賀県武雄「Kaji synergy restaurant」シェフの梶原大輔さん、日本を代表するソムリエの大越基裕さん

さて一方は、佐賀で注目を集めるシェフの「Kaji synergy restaurant」梶原大輔シェフです。店名は、佐賀の食材を架け橋に、生産者とお客さまが一体となるような相乗効果=シナジーを生み出したいという意味を込めてつけられた名前だそう。自ら海に行き、山に入り、畑に生産者を訪ねて食材を探し、その食材をありのまま受け入れて料理へ表現する料理人として、県外からも彼の世界観を楽しみに足繁く通う方が増えています。

そんな個性の際立った2人のシェフのコラボレーション、おもしろくならないわけがないですよね。

サウナブームで今、最も熱い御船山楽園ホテル「らかんの湯」の麓にある、「Kaji synergy restaurant」は、大きな窓からたっぷり光が入り、緑がのぞめる開放感溢れるゆったりした居心地の良い場所。


佐賀と岩手の共作に世界のドリンクをペアリング

 

梶原シェフは、このイベントの前に佐々木さんのいる遠野の地を訪れたそうです。佐々木さんは、「冬の遠野は見渡す限りグレー。死の匂いしかしないので、全くお勧めしません。」と(笑)。でも、そんな中で梶原さんは、想像以上の過酷な環境で生き延びるために保存するという発酵技術が、人々の食を守ってきたことを身をもって感じられたと言います。

2人のシェフが「ローカル」×「ローカル」としてお互いの土地の魅力を尊重しながら、その時々の旬の食材を使い、この日のためだけに心を通わせて考案しれたメニューは本当に贅沢です。

全てが美味しく盛りだくさんだったメニューの中から、印象的だったものをいくつかピックアップしてご紹介します。

 

アミューズは、じゃがいもの再構築とニシユタカ 武雄イノシシのジャーキー&コンソメ。

お芋のお皿は、とおの屋でも出しているそうで、中身は辛味のある大根、にんじん、ごほうの漬物と玉ねぎをそやし水パニールと合わせてあるので、見た目とお口の中に入れた時の嬉しいギャップがありました。こちらに、梶原さん作の少しスパイスを効かせたイノシシのジャーキーと濃厚なイノシシのコンソメをあわせていただきます。

 
 

下炊きをしてオーブンで焼き上げた蕪に、生海苔と米、オリーブオイルで作ったソースを添えて。佐々木さんのレシピは、基本的に全て塩のみの味付けで、素材の味わいが活きる組み立てになっています。

こちらのお皿は、主に土鍋などを作成している安楽窯のもの。昭和13年の創業時より、陶磁器を焼くための耐火性の器を作ってきた窯元です。有田焼の透き通るような白は、この耐火性の器により守られて焼き上がるのです。有田焼の縁の下の力持ち、といったところですね。

 
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