「世間の当然」を自分は選べないという自覚
昔から、「パートナーと一緒に成長していきたいという気持ちよりも、自分にないものを持っている人に導いてほしい」と思う気持ちが強かったという由紀さん。父親不在の家庭で育ったため、父性に対する憧れも強かったのでしょう。お付き合いするのも、年上の男性ばかり。そうなるとなかなか大学や会社では出会いがありませんでした。しかし行きつけのバーで恋に落ちます。
それが現在の夫の信也さんでした。グラフィックデザイナーの彼と、メーカーの営業職の由紀さんには仕事の接点はありませんが、周辺にはいない、シャイでマイペースな信也さんに惹かれた由紀さん。ほどなくしてお付き合いが始まります。
しかしそこから結婚するまでに、8年ほど時間を要したお2人。原因はお互いに「いまのペースを崩したくない」「今は要らないと言っているけど、結婚して相手が子どもを欲しくなったらどうしよう」と恐れていたから、と由紀さん。
しかし、やがて2人は一緒にいるほうが自然、この先も2人でやっていこうと素直に思えたタイミングで入籍します。信也さんが49歳、由紀さんが34歳のときでした。
慎重に自分の気持ちを見極め、選択を重ねてきた由紀さん。取材中印象的だったのは「私は生い立ちに多少問題があり、ほかのひとより多くの時間、『子どもを持つべきか、持たない場合はどういう人生になるか』について考えてきました。『大多数が選ぶとわかっている道、そして自分はそれを選ばないことがわかっている』という状況で、長いこと世間における自分の立ち位置を考えてきた」という言葉です。
誰かがこのように真摯に、あるいはやむなく、またはいいと信じた人生について、他人があれこれと気軽に口を出すのはプライバシーの侵害なのだと改めて感じました。
出会いを取り持ってくれたバーの常連仲間が結婚パーティーを開いてくれて、順調に結婚生活をスタートしたお2人。「40代後半に入り、彼はすでに『変わったところがある独身の飄々としたおじさん』というキャラクターを確立していましたから、いわゆる赤ちゃんはまだ!? みたいな攻勢とは無縁だと思って油断していました」と由紀さん。
しかし待っていたのは、意外な周囲の声でした。
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