作家・ライターとして、多くの20代~40代の男女に「現代の男女が抱える問題」について取材をしてきた佐野倫子。その赤裸々な声は、まさに「事実は小説より奇なり」。社会も価値観も変化していく令和の夫婦問題を浮き彫りにします。

今回検証するのは、「子どもは持たない」と心に決めて結婚されたご夫婦のケース。ご夫妻は、15歳離れている歳の差カップルでもあります。そして共通点は、お互いに「生きづらさ」を抱えているということ。

お2人が、子どもを持たないと決めた背景、そして夫婦として突き当たってきた問題について考えていきます。

 
取材者プロフィール 由紀さん(仮名):44歳、単発アルバイター
信也さん(仮名): 59歳、グラフィックデザイナー

     
 

「育児が苦しい」と囁き続けた母の呪縛


「夫との結婚を決心した理由のひとつが、『子どもは要らない。絶対に作らない』と言っていたこと。当時彼は40代でしたが、それまで独身だったのは、お付き合いした女性たちが結婚したら子どもが欲しいと言い、すれ違ったことが大きいと言っていました。それが私には刺さったんです」

取材場所のカフェに現れた由紀さんは、周囲で食事をしていた子どもに目を細めながら穏やかに語ります。子どもは欲しくないといいつつ、嫌い、というわけではなさそうでした。なぜ「選択子なし」夫婦となったのか、まずはその経緯を伺います。

「結婚しても子どもは産まないと決めたのは中学生の頃だったと思います。事情があってほとんど一人で私と弟を育てた母は、育児の辛さを毎日、長女の私にぶつけました。弟は少々風変りな子だったので、母の心配も関心も彼が独り占めでしたね。

母は一人で育児に悩んでいたんだと思います。私には、いかに子育てが辛いかを延々と愚痴っていました。『あなたは東大に行ってバリバリのキャリアウーマンになるのよ。恋愛も結婚もつまらないわ。最後は育児に縛られるだけよ』とも。まあそれはさすがに無茶言うなと思ったんですけれど(笑)、子どもに関しては、そこまで産み育てるのが辛いものなら私はやめよう、と自然に考えるようになりました」

子どもを持たないと決めたのが10代と聞いて驚きもありましたが、伺ううちに納得するエピソードがたくさんありました。由紀さん自身も、学業には問題はなかったものの「お財布をこれまで50回以上失くしたことがある」「約束の時間に間に合わせるのが難しい」などの注意散漫な特性を自覚していて、もしも子育てが上手にできなかったら……という恐怖もあったそう。

大人になり、「出産どころか結婚もしないだろうな……」と思っていた由紀さん。しかし、出会いは予想もしないところにあったのです。