夜な夜な人間の生き血を求めて彷徨う不老不死の怪物「吸血鬼」。そのミステリアスさから、小説や映画、漫画などの創作に使われるモチーフとして世界中で愛されてきました。今回紹介する『るるひかる-Vampire Memories』も吸血鬼が活躍する物語。ですが、彼らは今まで創作で描かれてきた数多くの吸血鬼の中でも“世界一丁寧に”人の血を吸うのです。その理由と血が紡ぐ物語とは?


ある日突然“吸血鬼宣告”を受けた女子高生


物語の舞台は、かつては吸血鬼のような特殊体質を持つ者たちが「摂血種」として呼ばれ、人間と共存している社会。独自の判断による吸血行為の禁止といった厳格な法令が定められているほか、定期的な倫理講習の参加など「摂血種」は公的機関によって保護・管理されています。

 

そんなある日、異常な身体の回復力、味覚障害……数々の身体の異変に気づいた高校2年生の小川るるは精密検査を受けた結果「摂血種」であると宣告されます。

 

余命宣告ならぬ、いきなり不老不死(吸血鬼)宣告を受けたるる。気持ちの整理が追いつかず困惑しますが、そんな時に彼女が公的機関で偶然で出会ったのが同じ「摂血種」の男性、エドゥアルト・シュヴェツでした。

 

 

血と引き換えに相手の“記憶”を引き継ぐ!?現代の吸血鬼のお仕事


実は250歳だという大先輩(!?)の通称・エド。そして、彼の職業は「摂血種」のみ従事できる「記憶伝承士」というもの。

 

人間の生き血を大量に飲むことで、その相手の記憶を引き継ぐことができる……そんな「摂血種」の性質を利用した「記憶伝承士」は、主に後継者のいない無形文化を伝え繋ぐ担い手として重宝されています。

エドと出会ったことをきっかけに、「記憶伝承士」の助手として働くことになったるる。初仕事として訪れたのは、余命宣告を受けたとある職人の病室でした。

 

彼女は「道ヶ浜簪」と呼ばれる伝統工芸品の最後の職人。今夜、自分の血、いや命と引き換えに「記憶伝承士」に伝統工芸技術の記憶を託すのです。

記憶や技術だけではない、想いを伝え繋ぐお仕事

 

実際の現場に立ち会うことで「記憶伝承士」という仕事に付きまとう生死の重みを感じる、るる。

ですが、記憶伝承を行う前に職人の元に弟子入りをするなど、依頼者と真摯に向き合うエドの姿。そして、命と引き換えに文化を次の世代に託そうとする依頼者の想い。それらに触れていくうちに「記憶伝承士」の尊さに気付いていくのです。

 

――長年にわたり継承されてきた文化や技術力によって生み出される伝統工芸品。日本が世界に誇る文化の一つでありながら、私たちが生きる現実社会でも後継者不足という大きな問題を抱えています。

ただ単に文化や技術力を継承するだけなら、ロボットやAIなど技術の発展によって実現する日がくるかもしれません。ですが、果たしてそれは継承と言えるのでしょうか?

 

例えば、エドやるるが継承するのは、文化や技術だけではありません。それは、良いものを生み出すために試行錯誤し、その技術を後世に伝え繋ごうとした先人たちの強い想い。それらが長い間受け継がれていくことで、文化は絶えず生まれ発展していくのだと、『るるひかる-Vampire Memories』は本当の意味での継承を教えてくれます。

ちなみに、作中には1話に登場する「道ヶ浜簪」のほか、数多くの魅力的な伝統工芸品が登場しますが、実は全て今村翠先生によるフィクション。思わず検索したくなるほどリアルな世界観、そして心に迫る作り手のストーリーにもぜひ注目してください。

 

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<作品紹介>
『るるひかる-Vampire Memories』
今村 翠 (著)

高校2年生の小川るるは、かつて吸血鬼と呼ばれた特異体質「摂血種」と宣告された。摂血種の生業として血とともに記憶を受け継ぐ「記憶伝承士」のエドと出会ったるるは、彼の助手として働くことになるが――!?

 


<作者プロフィール>
今村翠

漫画家。第70回小学館新人コミック大賞にて『カレイドスコープ』で少年部門入選。第11回新潮社バンチ漫画大賞では『Oh, my Muse!』で佳作を受賞。2022年2月より、月刊コミックバンチ4月号(新潮社)にて初の連載作となる『るるひかる -Vampire Memories-』がスタート。大好評連載中(既刊2巻)。
twitter:@mimamuraidori