日本では、離婚後の子どもの親権争いは母親が有利です。母親の方が子どもと長い時間過ごしているため、離婚後の子どもの生活の変化や精神的負担が少ない、というのが理由ですが、今回紹介する作品のような状況だったらどうなのでしょう。妻の浮気をきっかけに、娘の親権獲得を目指そうと社会に挑む『離婚しない男』の1巻が2月20日に発売されました。

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『離婚しない男(1)』 (ヤンマガKCスペシャル)

”調停や審判による親権者の取り決めのうち、父親が親権を獲得できたのは約1割。残り9割の父親は子どもとの同居が叶わず、引き離されて生活している”
(令和2年度 裁判所の司法統計データより)

新聞社社会部のエース記者だった岡谷は、妻に代わって育児をするために在宅ワークをはじめました。美人な専業主婦の妻と幼稚園児の娘と三人暮らしをしている彼は、慣れない家事を必死にこなそうと奮闘しています。

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職場では、岡谷がてっきり出世したものだと勘違いしていた後輩が叫びます。

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家庭を回す難しさにげんなりしている岡谷が在宅ワークにした理由とは⋯⋯? 自慢の可愛い娘をタレントにしたくてしかたない妻は、夫が仕事で忙しい間に他の男と浮気し、専業主婦なのに家の掃除も家事もしない、いわゆる「ダメ妻」でした。

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もうこんな女、愛していない。岡谷は「離婚したい男」だったのです。
でも、娘は愛している。離婚して親権を取りたい岡谷は、妻の浮気の証拠を集め法律事務所に向かいます。しかし、弁護士はこう言います。「親権者というのは、子どもを育てるにあたって能力を求められるのであり、子どものための目線でしか考慮されない。」「子どもを育てる能力が優っているなら、不貞があっても関係ない。」岡谷は、家族を裏切って浮気する妻より自分を親権者にした方が子どもの生活環境からしてふさわしいでしょ、と主張しますが、親権には「母性優先の法則」があると聞かされ驚くのでした。

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「今の日本の父親の親権獲得率はわずか一割」。その事実を知り、絶句する岡谷。どんな不貞をしていても母親だというだけでほぼ親権が取れる。でも、自分は記者のキャリアを捨てたのに親権が取れないなんて。一度は落胆しあきらめる彼でしたが、自宅での決定的な浮気現場を目撃したことで、なんとしてでも娘の親権を取りたいと決めるのです。

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岡谷が相談した法律事務所のほとんどは、離婚問題が得意だと謳いながらも父親が親権を獲得したいと相談すると手のひら返しで依頼を断ってきました。それほど勝ち目のない案件だということです。親権獲得で圧倒的に不利な父親が、押さえなければいけない条件は「養育実績」と「養育環境」。実績作りにはかなりの時間がかかることと、そもそも母親側に親権獲得の意思を知られていないことが前提。

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そして、岡谷の場合、妻はもう離婚したがっているのが判明。つまりその期間は、破局寸前の妻のご機嫌を取りつつ、夫婦生活を継続させないといけないのです。なんてハードルが高く、矛盾する課題なのでしょうか。「離婚したい男」のはずなのに、養育実績を作るため「離婚できない男」になるしかないと知って、岡谷は地獄のような日々を過ごすことになります⋯⋯。

 

父親が親権を獲得するにはこれだけハードルがあるのは、男性側から見る法律的な「性の不平等」といえます。「母性優先の法則」も、女性にはもともと母性が備わっていて自分のことよりも子どもを優先させるのが当たり前、という母性神話を前提としていて、女性側から見てもそれは偏見だしおかしい、と言いたくなりませんか。

また、日本は主要七カ国(G7)で唯一、父母がともに子どもに対して親権を持つ制度である共同親権がまだ認められていません。岡谷が苦しむのは、どちらか一方の親のみが親権を持つ単独親権しか認められていないからなのではないでしょうか? 現在は共同親権の導入について政府で検討されている最中ですが、共同親権が導入されると子どもが親の板挟みになるなどの問題が発生するなど反対の声も大きくあります。けれど、本作から感じるのは、大事なのは各々の家庭状況にあわせて、親権を選択できる自由ではないだろうか、ということ。父親が離婚後の親権を獲得するまでの過酷な道のりの先にあるものとはなんなのか。岡谷の今後を見届けたいです。

 

『離婚しない男』第1〜2話を試し読み!
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<作品紹介>
『離婚しない男』
大竹 玲二 (著)

社会部のエース記者だった岡谷が出世を捨て、家庭に生きる道を選んだ。愛娘のためにお弁当を作り、幼稚園に送り迎えをする岡谷。誰もがうらやむイクメンになった岡谷だが、実はその裏に壮大な計画があった――。男の理不尽な壁に挑むリコン・ブラックコメディ!!

 

作者プロフィール:
大竹 玲二
『グッドファザーボード』の漫画担当。現在、『離婚しない男』を「週刊ヤングマガジン」(講談社)にて連載中。
Twitterアカウント:@ohtake_rage

 


構成/大槻由実子
編集/坂口彩

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