ついに果たした、エリート育ちではない自分との決別
その呪縛を打ち払ったのが、今シーズンのNHK杯です。
確かに、結果は4位と奮いませんでした。宇野選手、山本選手と同世代のライバルたちが表彰台に立つ中、自分だけメダルを持ち帰ることができなかった。あのジュニアグランプリシリーズの選考会で抱いたような悔しさに打ちのめされているんじゃないか。そう勝手に胸を痛めたりもしました。だけど、試合後の友野選手の表情は清々しかった。
「僕はずっと今まで自分の弱さばかりに向き合っていた部分があって、もういいだろうと。もうそろそろ自分の実力も少しずつついてきて、もう自分の強さと向き合ってもいいんじゃないかというふうに、昨日終えてから気持ちの変化があって。今日は初めて自分の持っている力を信じ切って、自分の強さと向き合って挑んだ試合でした」
目標だった表彰台を逃しながら、友野選手は決してネガティブな弱音は漏らしませんでした。むしろ前だけを向いていた。そこに僕は今までの友野選手にはない強さを感じたのです。
自分の弱さではなく、自分の強さと向き合う。
その言葉の裏にあるのは、決してエリート育ちではない自分との決別です。確かに大人たちから期待されてきたスケート人生ではなかったのかもしれない。自分より才能がある人なんて星の数ほどいるかもしれない。競技の世界に身を置く人たちには、私たちの想像の及ばないような苦しみがあるのだと思います。
でも、そんな自分が今この場所に立っている。そのことを、まずは自分が信じてあげよう。自分が、自分に、誰より期待してみよう。そう友野選手は気持ちを切り替えられた。そうやって弱さを跳ね除けた。
決して有利な位置にはいなかった代表争いを制し、自力で代表の座を獲得。そして、世界のトップスケーターたちが最高の演技を披露する中、世界選手権で堂々の6位入賞。本人も「謎の自信」とコメントしていましたが、さいたまスーパーアリーナのメインリンクに立つ友野選手にはもう引け目や自信のなさは一切感じられなかった。そこにいる自分を、誰よりも自分が信じていた。
だからこそ、たとえ転倒しても、気持ちが折れることもなく、情熱が途絶えることもなく、ベストと言える滑りができた。残念ながらメダルには届きませんでしたが、間違いなくあのときの友野選手は、友野一希史上最強の友野一希でした。
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