売電している一般家庭が「課税事業者」になると何が起きる?
アツミ:そういえば少し前に、大手電力会社から売電している一般家庭に「インボイス登録のお願い」というハガキが送られてきたというのがニュースになっていましたよね。
小泉:それ自体は違法ではないし、私たちフリーライターにも出版社からそういうハガキが送られてきています。ただ売電しているご家庭は、そもそも自分たちが商売をする「事業者」であるなんて認識はないでしょうし、言われるがままに「課税事業者」になってしまったら、帳簿をつけて消費税を納税しなきゃいけないことも、理解してませんよね。
アツミ:でもたしかインボイスの登録って任意ですよね。それほど大きな収入ではない売電から帳簿をつけるのは面倒な上に、納税は家計の負担にもなるし……。
小泉:繰り返しになりますが、「インボイス登録のお願い」ハガキが来ること自体はおかしなことではないけれど、事業者ではない一般家庭に突然送りつけるのはあまりに乱暴だと感じます。
佐々木:結局、電気の売買については、経産省は一般家庭を課税事業者に転換させるのは困難と判断し、免税事業者のままでOKですよ、と通達しています。
アツミ:そうなると売電している一般家庭は、これまで通り「免税事業者」のままですよね。
佐々木:そうです。ちなみに現行制度なら、それでも請求金額から割り出した消費税額分を「仕入れ税額控除」できたんです。が、インボイス制度では「課税事業者」の「インボイス」でないとそれが許されません。じゃあ増えた分の負担をどうするか。
アツミ:それで、値上げですか。
佐々木:そうです。電力消費に一律してかかる「再生可能エネルギー発電促進賦課金」というのを増額して、これに充てようとしているみたいなんですね。
小泉:インボイス制度は税率変更をしない消費税増税なので、その増税分を誰が払うか? という押し付け合いを引き起こすものなんです。電力会社の場合、売電する一般家庭に押し付けることは難しいので、「じゃあ消費者から広く薄く負担してもらおう」という話なんですね。
アツミ:こういう話ーー課税事業者になるのか、ならないのか、増えた消費税分を誰が負担するのかっていうのは、あらゆる取り引きで起こる話ですよね。
常松:「出版社とフリーランス」はもちろんですが、「大手と下請け」とか「卸売と小売店」とか。
小泉:「自治体と公共事業の請負業者」「給食センターと地元農家」というのもありますし、電気代のように消費者が負担をかぶる場合も。結局は、「NO」と言えない、取引関係において一番力の弱い人に負担がいくことになるんです。
佐々木:アルバイトやパートなどでお給料をもらう方はインボイス発行事業者の対象に含まれないんですが、業務委託とか業務請負というのは個人事業主なのでインボイス制度が影響します。例えばヤクルトレディや一部の生保レディ(保険外交員)なんかはこれにあたります。
アツミ:定年退職した後の再雇用でも、業務委託の場合なら個人事業主ですよね。あとはUber EatsやAmazon Flexと呼ばれる、配送、配達業も。
小泉:インボイス制度に登録する、しないをめぐり、あらゆる場所でこういう葛藤が起こってきていて、良好だった仕事仲間との関係がこじれたり、悩んでる人がいっぱいいるわけですよね。にも関わらず電力会社だけは、国にひゅっと助けてもらえる。こんな不公平はないですよね。
アツミ:いずれにしろ、インボイス制度により発生する税負担や値上げ負担を誰かが負うことに。
小泉:それがまわりまわって消費者に行く。どこかで値上げせざるを得ないわけで、インボイス制度で物価高は進んでいくと思います。
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