もう二度と会えないはずの大切な人が、ある日突然目の前に現れたら。そして、それが偽物だと分かっていたら……あなたならどうしますか?

『嘘の子供』(1) (ガンガンコミックスJOKER)


「人間を泣かす」狸の復讐劇が始まる?!


あるところに、人間への復讐を計画する一匹の狸がいました。人間に嫌な目に合わされてきたという狸による、気になる復讐の内容とは“人間を泣かす”こと。

 

手始めに人間に化けて悪さをしようと企む狸は、偶然入り込んだ民家に飾ってあった、とある写真に写る少女に化けるのですが……。実はこの狸、無邪気にとんでもないことをしでかしてしまうのです。

 

狸が化けた人間、それは亡くなった柚子という少女でした。

 


亡くなった少女に化けてしまった狸と、その家族が織りなす日常


二度と会えないはずの亡き娘と奇跡の再会を果たした母親。夢や幽霊でも良いから娘をずっと抱きしめていたい……そんな残された遺族の悲しみ、深い愛がページいっぱいに滲みますが、当の狸はというと。

 


偶然とはいえ自分がしでかしてしまったことはもちろん、人間が涙を流している理由も分からず、しまいには気が抜けて変身を解いてしまうのです。

文字通り狸に化かされた……まるで昔話のような展開に驚くものの、何か事情があるのだろうと狸に優しく接する母親。

 

その優しさにすっかり安心しきった狸は、復讐の計画はどこへいったのやら。唐揚げに天ぷらなど、人間界の食べ物を堪能し人里ライフを楽しんでいる様子。

こうして偶然亡き少女に化けてしまった狸。そして、偽物だとわかっていても“嘘の子供“を受け入れる家族のちょっぴり不思議な日常が始まるのです。
 

互いを前進させる、嘘がもたらす温かい奇跡


愛らしい絵柄も相まって全体的にほのぼのとした空気感が漂う『嘘の子供』。けれど、亡き少女に化けた狸とそれを受け止める家族……両者に重く付きまとう“嘘”という事実。

嘘吐きは泥棒の始まり、嘘をつくと閻魔様に舌を抜かれる……という言葉あるように、嘘をつくのは悪いことだ、その先にはバッドエンドしかないのだと、私たちは嘘に対してついそんなイメージを抱いてしまいます。

だからこそ、この可愛らしい狸と優しい家族の行く末をつい案じてしまうのですが、読み進めていくうちに嘘が人を前進させることもあるのだと。『嘘の子供』は、そんな嘘がもたらす温かい奇跡を教えてくれるのです。

 

例えば、この無邪気な狸。人間社会の暮らしはもちろんですが、人の死、それによって伴う心の傷みなどを知らない……まるで生まれたばかりの子供のように無知で無垢な状態でした。ですが、柚子に化けて暮らしていくうちに、社会性や感情の機微といったものを自然と学んでいくのです。

そして、狸を受け入れた家族も、時には過去の思い出が蘇って涙する場面もあります。でも、娘であって娘ではない……そんな不思議な存在に背中を押され、娘を思い出すからといって今まで目を背けていたものに少しずつ向き合っていきます。

ある日突然現れた偽物の亡き娘。嘘の先には、化ける側はもちろん、それを受け入れる側をも前進させる温かな物語が広がっています。優しい空気に包まれる今の季節にぜひおすすめしたい一作です。

 

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<作品紹介>
『嘘の子供』
川村拓 (著)

幼くして亡くした子供が、そのままの姿で現れたら?それがもしも、化け狸の仕業だったら?再会じゃない。本物じゃない。だけどそれでも──すがりたい。その嘘は、優しくて、悲しい。川村拓が贈る、心ゆさぶるヒューマンドラマ。


<作者プロフィール>
川村拓

漫画家。代表作に『かわいい後輩に言わされたい』『留年!とどめ先輩』など。月刊「ガンガンJOKER」にて『事情を知らない転校生がグイグイくる。』(既刊14巻)と『嘘の子供』(既刊1巻)が大好評連載中。『事情を知らない転校生がグイグイくる。』は2023年4月よりTVアニメ放送中。
Twitter:@kawamurataku

©Taku Kawamura/SQUARE ENIX