アイドルや芸能人のおめでたい報道が出ると、ファンの間で「推しの子どもに転生したい」と悲鳴が上がることがあります。ショックと、それでも変わらぬ「推し」への愛を表現しているのですが、もしその願いが本当に叶ってしまったら?
とあるアイドルのファンである主人公が、亡くなってしまい、好きなアイドルの子どもに輪廻転生する。そんな斬新な設定で芸能界と「推し」の世界を描く『【推しの子】』は、4月下旬に発表される第26回手塚治虫文化賞のマンガ大賞候補にノミネートされました。
産婦人科医のゴローは、アイドル好き。彼の「推し」はアイ。結成から4年のアイドルグループ「B小町」で、不動のセンター、16歳。これから彼女たちはスターダムに駆け上がるはず! と、患者に「B小町」のDVDを見せて布教活動をするほど熱狂的なファンでした。
ところが、アイが体調不良で活動休止するというニュースが。ショックを受けつつ、彼女の体調が心配になるゴロー。
なぜ、彼はアイを推すようになったのでしょうか?
そこには、研修医だった頃に出会った患者・さりなの存在がありました。「私と同い年なのに大人っぽくてダンスも歌も上手いの! 何より顔が良い」当時12歳だった彼女は、アイがどんなに魅力的かを彼に語りました。そして、こう聞いたのです。
同い年のアイに憧れるさりなに好かれていたゴローでしたが、彼女はその後、退形生成星細胞腫という病気で亡くなってしまいました。
そして現在。ゴローの元に、サングラスの男に連れられた女性患者が訪れます。
お腹が目立ちはじめている彼女は16歳。ワケアリの妊娠のようです。施設育ちのため、連れの男は実の親ではなく身元引受人なのだそう。「16歳で施設育ち」。「推し」のスペックに似ている、とゴローが患者の顔を見ると⋯⋯
なんとアイ本人! そっくりさん!? いやいや、間違えるわけがない。推しが妊娠! しかも患者で来るなんて!! 動揺を必死に抑えて、診察を続けるゴロー。検査の結果、アイは双子を妊娠していました。妊娠を知った彼女には堕胎という選択肢はなさそう。衝撃を受けながらも産婦人科医としては「最終的な決定権は君にある」としか言えないと思う彼。でも、ファンとしての思いは複雑でした。
「君はアイドルをやめるのか?」と聞くと、「子供も産む、アイドルも辞めない」とアイはキラキラした目で語り出します。
子供のことは隠したままアイドルを続けたい。アイのアイドルとしての図太さ、強さに心打たれたゴローは、医者として、ファンとして「より安全に確実に子供を産ませてみせる」と決めます。
ところが、彼にある事件が起きてしまいます。
その後、ゴローは文字通り「推しの子」に転生し、彼は以前の記憶を持ったまま、アイの息子として生きることになるのです。
予想外すぎる設定なのですが、ここからが物語のはじまり。本作のテーマは「芸能界において嘘は武器」。アイドルだけじゃなく、スタッフも事務所も売れるための嘘と打算ばかり。恵まれた外見と才能だけでは生き残れない世界で、アイはどうやって国民的アイドルに上りつめるのでしょうか? そして「推しの子ども」の立場からアイの奮闘ぶりを見るゴローは何を思うのか? 誰かに「推される」ため、日々もがくアイドルや役者たち。その姿に、彼らも舞台を作る「裏方」なんだ! と気づかされる作品になっています。
【漫画】『【推しの子】』第1話を試し読み!
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『【推しの子】』
赤坂アカ×横槍メンゴ
地方都市で産婦人科医として働くゴローは、芸能界とは無縁の日々。一方、彼の「推し」アイドル・星野アイは、スターダムを上り始めていた。そんな二人が「最悪」の出会いを果たし、運命が動き出す。
作者プロフィール
©️赤坂アカ×横槍メンゴ/集英社
構成/大槻由実子
赤坂アカ
『ib インスタントバレット』 (KADOKAWA)、『かぐや様は告らせたい〜天才たちの恋愛頭脳戦〜』(集英社) 『【推しの子】』(集英社)などが代表作。イラストレーターとしても活動しており、「IA -ARIA ON THE PLANETES-」のキャラクターデザインなども担当している。
Twitterアカウント:@akasaka_aka