2022年9月、英国・エリザベス女王の国葬に参列された天皇陛下と雅子さま。この日の雅子さまの装いは、世界の人々から「さすがは日本の皇室」と讃えられました。とりわけ、悲しみを表わす黒い喪服に控え目に輝く宝石「ジェット」に注目が集まったのです。
皇室の方々が服喪の際に身に付けるという、漆黒の宝石「ジェット」。その魅力を、皇室の装いに詳しいファッション評論家の石原裕子さんに伺いました。
太古の壮大なロマンを感じさせる宝石「ジェット」
――エリザベス女王の国葬の際に、漆黒のイヤリングとネックレスを身に付けられた雅子さまは、とても気品があって印象に残りました。
石原裕子さん:雅子さま、ほんとうにお美しかったですね。イヤリングとネックレスは、「ジェット」という宝石です。海外からの参列者のなかには柄物やデザインに凝った喪服の方がいたなかで、落ち着いたブラックスーツにトーク帽をお召しになり「ジェット」を付けられた雅子さまは、すべての礼儀をつくしていて「さすがに日本の皇室は思慮深い」と評判でした。
――「ジェット」とはどのようなものですか。
石原さん:樹木の化石から作られた特別な宝石です。太古の時代に、海に沈んだ樹木の上に石が積み重なって圧縮され、炭化してできたのです。壮大なロマンを感じる、すばらしい宝石ですね。もうあまり採れない貴重な資源だそうですよ。
――いつ頃からジュエリーとして身に付けられるようになったのですか。
石原さん:1800年代に英国のヴィクトリア女王が、夫の死後、ずっと喪服で過ごしたことはよく知られていますね。ヴィクトリア女王が喪服に身に付けていたのが、「ジェット」だったのです。夫の死を悲しんで人々に会おうとしなかった女王が、「私に会いたい人は、ジェットを身に付けるように」と言ったため、人々が買い求めてたいへんなブームになりました。英国中のショーウィンドウから、ジェットのアクセサリーが消えたほどだそうですよ。
落ち着いた輝きを放つ漆黒の「ジェット」は、女性の素肌を美しく魅せる
――雅子さまをはじめ、皇室の方々がお葬儀の際に身に付けていらっしゃいますね。
石原さん:日本の皇室の洋装は、親しい間柄の英王室をお手本にしています。現在の英王室は故人との思い出のジュエリーを選ばれる方も多いようですが、日本の皇室では、歴史に倣い、ご葬儀の際には「ジェット」を身に付けるとされているんですね。現在、皇室の方々が付けていらっしゃる「ジェット」は、代々受け継がれてきたものでしょう。
――一般では喪服に白いパールをつけることが多いですが、「ジェット」の落ち着いた輝きは心惹かれますね。
石原さん:「ジェット」は、磨くと漆のような落ち着いた輝きを放ちます。喪服に黒い「ジェット」を合わせると、女性の素肌を美しく魅せるんです。
「ジェット」は、もともと魔除けとして使われていたといいます。昔は黒は闇の色で不吉と考えられていました。でも今は、黒い装いはエレガントです。そのうえに「ジェット」を付けると清らかなパワーをもらえるようで、気品溢れる存在感を放ちますね。
――三笠宮崇仁(たかひと)さまの「斂葬の儀」で、雅子さまは喪服に「ジェット」を付けられた装いに、トーク帽の上からそっとヴェールをかけていらっしゃいました。薄く半透明な黒いヴェールが風になびいて、まるで映画のワンシーンのように幻想的でした。
石原さん:帽子のつばで目のあたりに柔らかな影ができることをミラクルシャドウといいますが、透明なヴェールは雅子さまのお顔にそっと影を落として、心からのお悔やみのお気持ちが伝わってきますね。
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石原裕子(いしはら・ゆうこ)
ファッション評論家。長年に渡りパリ、ミラノ、ロンドン、ニューヨークのプレタポルテコレクションを取材し、世界のファッション業界事情に精通している。即位関連の一連の儀式の間、メディアで雅子さまの装いを分かりやすく解説。現在、テレビ・雑誌・講演などで活躍中。「ファッションチェック」という言葉の発案者でもある。
【写真】漆黒の宝石に込められた想い…皇族の方々の「ジェット」のコーディネート
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1 2016年11月4日、三笠宮崇仁さま「斂葬の儀」にて。写真/ロイター/アフロ
2 2012年6月14日、三笠宮寛仁さまの「斂葬の儀」に参列される皇太子さま(現・天皇陛下・以下同)と雅子さま。写真/代表撮影/AP/アフロ
3 2002年11月23日、高円宮慶仁さま「拝訣の儀」にて。写真/The Asahi Shimbun
4 2022年9月27日、安倍晋三元首相の国葬に参列された信子さま。写真/代表撮影/ロイター/アフロ
5、6 2022年9月19日、英国・エリザベス女王の国葬にて。写真/代表撮影/ロイター/アフロ
7 2022年9月19日、ウェストミンスター寺院での国葬に向かわれる天皇皇后両陛下。写真/REX/アフロ
8 2022年9月19日、英国・エリザベス女王の国葬にて。写真/代表撮影/ロイター/アフロ
キャプションは過去の資料をあたり、敬称・名称・地名・施設名・大会名・催し物名など、その当時のものを使用しています。
構成/熊木彩乃
前回記事「【雅子さま】帽子と靴バッグ、手袋も同色で。調停制度100年記念式典でもお召しの全身ワントーンコーデ10選」はこちら>>
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