直感を働かせるには「自分を好きになること」


──『駆け込み寺の庵主さん 心のモヤモヤ「供養」します』を読んで驚かされたのが、庵主さんの行動力と決断力でした。特に印象的だったのが48歳で看護師を辞めて出家されたことです。多くの人にとって「48歳」は生き方が定まったと感じる年齢だと思いますが、庵主さんは出家を決意される際にご自身の年齢を意識しましたか?

確かに、「五十にして天命を知る」という言葉もありますものね。でも、私自身は48歳になって「生き方が定まった」という自覚はまったくありませんでした。シングルマザーから看護師を志し、縁あって移住した隠岐の離島でも数多くのお看取りの場に立ち会うなかで、よりよい生と死を支えたいと願ううちに自然と機が熟したのが、たまたま48歳だったと思います。出家は即断即決でした。

「天命」をいつ悟るのかは人それぞれ。20代の方もいれば、70代にして目覚める方もいる。焦らなくても大丈夫。年齢よりも、大事にすべきは「直感」じゃないでしょうか。

──幼少期から即断即決だったのですか?

いえいえ(笑)、そうでもないです。妙にプライドが高い反面、失敗すると、これでもかというほど落ち込む子供でした。看護師時代はもう、結果が伴わないとゴハンも食べられないぐらいガックリきましたもん。あんなに食い意地張ってるのに(笑)。そんな自分のことも、好きになれない部分が多々あった。

失敗を極度に恐れて即断即決なんてとてもできなかった私が変わったのは、直感に素直に従えるようになったことが大きいです。お坊さんになれば、医療の世界ではサポートしきれない「逝く人・見送る人双方の満足」を支えられる! って、ある日パッと思ったんです。直感は、自分のことが好きじゃないと働かないもの。だって、キライな人の言うことって、聞きたくないでしょう? きっといろいろ失敗するうちに、ダメなところを含めて自分のことを丸ごと受け入れるようになれたんでしょうね。

私たちはみんな「奇跡の人」、何度でもやり直せる!──「駆け込み寺の庵主さん」が悩みを抱える人に伝えたいこと_img1
写真:Shutterstock


自分に足りないものに気づき、落ち込みやすい性格をコントロール


──落ち込みやすい性格だったとおっしゃっていましたが、どうやって直したのですか?

残念ながら、落ち込みやすい性格自体は変わっていません。今でも「わー、やっちゃったなあ……」ってことはたくさんあります。でも、ある時、「私ならここまでできるはず」という思い込みを勝手に高く設定して、勝手に挫折してるからだと気付いてからは、落ち込みをある程度コントロールすることができるようになりました。私だけの力でできることなど、ほぼない。すべて皆さんのおかげだと感謝するようになって初めて、謙虚に生きるということを学んだ気がします。

 

──ご自分に足りないものが「謙虚さ」だと気づいたきっかけは何だったのですか?

修行前に、幼少期からの母との関係をひたすら2時間考え続ける機会があったんですが、そこで浮かんだのは5歳の時の光景。朝の服選びで母と些細なことで揉めて、アクシデントのように頭をはたかれた一件でした。私、ずっと母のことを恨んできたのを思い出して。

一方、私は母に何をお返しできたか。制限時間ギリギリまで考えたけれど、なにひとつ浮かばなかった。私は、信じられないほど「与えられて」生きられてきたんです。その時、初めてわかった気がしました。私は周囲からの山ほどの恩恵で生かされている存在であり、恨みや悩みなんて、紐解いていけば実態は「ない」に等しく、ただただ自分でこねくりまわして重たく、しんどくしているだけなんやって。これこそまさしく「心のゴミ」です。

 

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不徹寺Twitterより