米倉涼子さんが見た、最新のおすすめエンタメ情報をお届けします。
ケイト・ブランシェットの主演作ということで興味を持った『TAR/ター』。
どんな作品なのか情報を入れないまま観て、こういう映画だったんだ! と衝撃を受けました。
映画館に行ったつもりが、出る頃にはまるでお化け屋敷を体験したかのような気分になっているーー。そんな経験をさせてくれる作品です。
ケイトが演じるのは、世界的に活躍している指揮者のリディア・ター。
冒頭、彼女がインタビューを受けている長いシーンから始まるのですが、そこにいるのはケイトではなくて完全に別人。
オーストラリア人のケイトがアメリカ人のアクセントで話し、ピアノを弾き、指揮をする。重心がブレない指揮者としての体の使い方も自然で、彼女がこの映画のためにすべてを学んだことをパンフレットを読んで知り、本当に驚きました。
ターはベルリン・フィルの主席指揮者として君臨し、作曲家としても活躍している人物です。ものすごい権力を持っているから、周りの人に対して高圧的な態度で接することが日常になっているんですよね。
人ってここまでできるものだろうか、私だったら言いすぎたかな、とすぐに心配になってしまいそう……。
そんなことを思うと同時に、きっとターは強くいなければ自分が壊れてしまう世界で戦っているのだろうな、とも思いました。
ターの話しぶりはロジカルで、音楽の歴史についてもまるで辞書のように次々と言葉が出てきます。自分の哲学や理念から抜け出せなくなったことが、悲劇を招いたのかもしれません。
プレッシャーに押しつぶされそうになるターが、メトロノームの音を気にするシーンも印象的でした。
私もホテルに泊まったときなどに、ほんの少しの音が気になって寝られないことがあるんですね。そういう感覚を生々しく体感させるところも、この映画の独特な魅力になっていると思います。
ターはある疑惑をきっかけに、だんだん追い詰められていきます。
罠を仕掛けたのは誰なのか、そして最後に彼女がたどり着いた場所の意味は何なのか。
すべてを理解できたわけではないし、人間の闇の部分から目を背けたくなるようなシーンもありました。
でも最後までターの物語に引き付けられたのは、監督が作ったリズムに乗ることができたからだと思います。音楽が鳴り響くシーンと、無音のシーンの緩急が素晴らしかった
この映画はトッド・フィールド監督の16年ぶりの作品だそうです。
リサーチを重ねて、自分が納得するまでは撮らない監督なのでしょうね。ジュリアード音楽院や作曲家の具体的な名前がいくつも登場するので、ターという人も実在しているのだろうかと錯覚してしまうほど。
リアルなのに、まるで悪夢のようでもあり……、この映画にしかない感覚をぜひスクリーンで味わってみてください。
<映画紹介>
『TAR/ター』
リディア・ターはアメリカの5大オーケストラで指揮を務めた後、女性としてはじめてベルリン・フィルの首席指揮者に就任し7年。作曲家としても活躍し、数々の賞を受賞していた。ゆるぎない地位を築いた彼女も、いまはマーラーの交響曲第5番の演奏と録音のプレッシャー、そして新曲の制作に苦しんでいた。そんな中、かつて彼女が指導した若手指揮者が自殺した、という一報が入り、疑惑をかけられたターは追い詰められていく。TOHOシネマズ日比谷他全国公開中。
俳優 米倉涼子×写真家 渞忠之× MetropolitanCrossbottleのトリプルコラボ
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取材・文/細谷美香
構成/片岡千晶(編集部)
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