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スペインを代表する監督、ペドロ・アルモドバル監督の新作『パラレル・マザーズ』を鑑賞しました。
アルモドバルは私にとって、シュールで強烈なのになぜかクセになる映画を撮り続けている監督。なかでも、アントニオ・バンデラス主演の『私が、生きる肌』は大好きな作品です。

今回の主人公はフォトグラファーのジャニス。
出産を控えた彼女は、同じように予想外の妊娠をした17歳のアナと病院で出会います。
シングルマザーとして生きる覚悟を決め、同じ日に女の子を出産したふたりは、また会うことを約束して退院。
ジャニスがセシリアと名付けた娘を父親であるはずの元恋人に会わせると、「自分の子供とは思えない」と告げられてしまいます。
DNA検査の結果、セシリアとは血が繋がっていないことが判明しますが、彼女は自分の胸にしまいこむことに。
アナの娘と取り違えられたのではないかと葛藤し、アナとの連絡を経って一年。彼女と再会したジャニスは、アナの娘が亡くなったことを知ります。

 

赤ちゃんの取り違えを題材にした映画といえば、是枝裕和監督の『そして父になる』が思い浮かびますが、この映画はタイトルからもわかるように母親たちの物語に焦点が当てられています。
若くして出産をして、仕事を優先する女優の母を持つアナ、働きながら子育てをするジャニス。
それぞれの葛藤を描きながら、母親になることや、母性について描かれていて、それが美しくもあり、生々しくもあり……。ジャニスとアナの特別なつながりも描かれていきます。

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これまでもアルモドバルと組んでいるペネロペ・クルスですが、この作品ではセクシーなだけではなく、年齢を重ねた女性を生々しく演じています。
出産シーンはもちろんこと、歩き方ひとつとっても、ふとしたところで年齢を感じさせる演技が素晴らしかった! 
仕事をする場面でも、実際にこういうフォトグラファーがいそうだなと思わせてくれる説得力もありました。

 

そしてアルモドバル監督作といえば、鮮やかな色を使ったインテリアも特徴のひとつですよね。飾られている絵画やポートレート、小物、ポーチのある庭など、隅々まで世界観が徹底されています。

 

今回の作品で新しさを感じたのは、母性についての物語だけではなくスペイン内戦の遺骨探しの話が描かれていること。
子供の取り違えとスペインの歴史、ふたつの物語をまとめる監督の手腕にも驚かされました。ファミリーヒストリーや自分のルーツを探る話は、世界のトレンドのひとつのような気がします。

<映画紹介>
『パラレル・マザーズ』

ペドロ・アルモドバル監督の最新作は、ライフワークでもある母の物語。同じ日に母となった二人の女性の数奇な運命と不思議な絆、この困難な時代における生き方を描く。さらに、「スペイン内戦」を人生のドラマの中に織り込み、深く広く多様な世界観を作り上げた。
ジャニスには、アルモドバル監督のミューズ、ペネロペ・クルス。答えの出ない問いを抱え続けるジャニスの複雑な心情を見事に体現し、ヴェネツィア国際映画祭最優秀女優賞受賞するなど、高い評価を得た。アナには、これが長編映画2作目の出演となるミレナ・スミット。

取材・文/細谷美香
構成/片岡千晶(編集部)

 

 

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