年齢を重ねて傷つくのは他人の言葉に、じゃなかった
『ピエタ』で小泉さんが演じる主人公エミーリアは、生まれたばかりの頃に「ピエタ慈善院」に捨てられた孤児です。その人生で特筆すべき美しい思い出は、ピエタで作曲家ヴィヴァルディから学んだ音楽と、たったひとつの謎めいた恋ぐらいしかありません。初めてこの本を読んだ時、エミーリアと同じ45歳だったという小泉さんは言います。
小泉今日子さん(以下、小泉):前向きに判断できない時もありますよね。年齢を重ねれば、 ちょぴっと傷つくこととかもあるじゃないですか。私のような職業だと、「老けた」とか「劣化した」とかみんな平気で言うし。あまりにずっと言われすぎてるから他人の言葉に傷ついたりはしないんですが、鏡を見て自分自身が「あーあ……」って思う時もありますよ。なんか思ったようになってないなって思う時に「せ、整形……?」なんて言葉が頭よぎったり(笑)。そういえばあの人は糸をいれたっていうけど、どういうことかしら……ボトックス的な? ボトックスってどういうの? ……みたいな誘惑に、気持ちがなびきそうな時もあるし(笑)。まあいろんな波が来ましたよ。40代の頃は、ハイブランド着てハイヒール履いて、めちゃくちゃおしゃれして夜遊びして……まあ武装ですよね、そうすることで価値が上がると思って。その後には「もうパンツしか履かない」みたいな感じに枯れかかって、プロデューサーの仕事とかもするから、コンサバよりの「ちゃんとしてる感」のある服を買うという、らしからぬ迷い方をしたり。まあ一周回るといろんな良さも悪さも分かるし、時に突き抜けられたりもするから、きっとずっと迷ってていいんだと思うんですよ。
迷いなんてなさそうな小泉さんもまた傷ついたり、迷ってたりしている、という展開にちょっとホッとしながらお話を聞くうちに、なんとなーく気づいたこと。それは小泉さんの「ものごとの重心」が、もしかして自分とは別のところにあるんじゃないか、というようなことです。
小泉:最近、実家の整理をしたら、小学校2~4年生の時の通信簿が出てきたんです。担任の先生は学年ごとに違ったはずなのに、書かれていたのは同じ内容で。ひとつは「無駄なおしゃべりが多いです」(笑)。そしてもうひとつは「友達の面倒見が良く、朗らかで、いいところがいっぱいありますが、自分の面倒も見ようね」。小さいころからそうなんですよね。自分のことより、他の人のほうが気になっちゃう性質で。母が授業参観に来た時にも、すごい遠くの席の子が消しゴムを落としたのに気づいて、いてもたってもいられず拾いに行っちゃったりしてたみたいで。今もそうですが、アイドル時代にはすでに「下の世代が歩きやすくなるよう、道を整えたい」ということも思っていました。自分が1年目の時に「怖かった」と思ったことは、後輩には絶対にしないとか。
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