信じるものがわかった人は力強く生きていける


――だからでしょうか。個人的には、新興宗教にのめり込む依子がそこまで病的というか不幸に見えなかったんですよね。

筒井 やっぱりその瞬間は救われているんで。夫がいた頃より元気なんですよね。

――ある意味、推しのグッズ代にお金をつぎ込むのと変わらないというか。

キムラ 一緒ですよ。

木野 人って大なり小なり何か信じるものがないと、この不条理な日常をとてもじゃないけど持ちこたえられないと思う。何かにしがみつかないと、このただ流されるように過ぎていく日々を張り合いのあるものとして生きていくなんて。ファンタジーだよ。

「女性の描写に違和感を持つことがある。こんな都合のいい女いねえだろって」究極の“女のエンパワメント映画“『波紋』座談会_img3
『波紋』 2023年5月26日(金)より、TOHOシネマズ日比谷ほか全国公開中 配給:ショウゲート ©2022 映画「波紋」フィルムパートナーズ

キムラ 私、依子さんは宗教がなかったら生きていなかったと思う。あれだけ大変な状況がいろいろ重なると、人はすがりつくものがないと生きていけない。依子さんは信じることで救われたんです。

木野 私も宗教自体を否定はしません。ただ、映画でも描かれていますけど、お金が絡んでくる宗教はね。夫が部屋を開けたとき、部屋いっぱいに(依子が信仰する宗教で販売されている)水のペットボトルがピラミッドのようにそびえてる。ギョッとしました。本人はその異様さに気付かない。むしろ心が安まるわけでしょ。こうやって丸裸にされていくんだなぁと。象徴的な画でしたね。

筒井 昨年、新興宗教が絡んだ襲撃事件がありましたが、監督がこの脚本を書いたのはそれよりずっと前で、撮影も事件の前。だから、撮ってた頃は宗教の描写に対してここまでするのかと圧倒されるものがあったんですけど、今となってはもうこれが普通というか。


――監督は、宗教の描写にあたって、どんなことを考えていましたか。

荻上 依子を取り囲む人たちはみんないい人なんですよね。誰も騙そうとしてない。依子を救いたいと思っているから、依子も宗教に引きずり込まれてしまった。それを嫌な感じにしたくないな、とは考えていました。

キムラ みんないい人なんですよね。本当に世界を良くしようと信じて疑わない。

木野 私、この映画を観て、人って話を聞いてほしいんだなって思った。(キムラ演じる)あの宗教のリーダーの人が、ちゃんと依子の話を聞いてあげるでしょ。あのときの依子には宗教しかすがるものがなかったから、あれだけ親身に聞いてくれたらそりゃのめり込んじゃうよねって。

キムラ ただ、本当の意味で依子さんを救ったのは宗教じゃないんですね。それはやっぱり(木野演じる)水木さん。水木さんの存在によって依子さんは自分のエネルギーを取り戻していく。信仰って対象を間違えたら大変なことになるけど、自分の信じるものはこれだとわかった人はこんなにも力強く生きていくことができるんだって依子さんを見て思った。

「女性の描写に違和感を持つことがある。こんな都合のいい女いねえだろって」究極の“女のエンパワメント映画“『波紋』座談会_img4
『波紋』 2023年5月26日(金)より、TOHOシネマズ日比谷ほか全国公開中 配給:ショウゲート ©2022 映画「波紋」フィルムパートナーズ

筒井 私もこの映画のすごく好きなところは、救いになるのは宗教じゃなくって、一緒に働いてたパート仲間だったというところなんです。

木野 休憩時間に無駄話をしていただけの相手なんだけどね。

筒井 それに救われるのが最高だなって。

キムラ また水木さんがすごくいい言葉をいっぱいくれるんですよ。夫に対して仕返ししていいんだよ、とか。正直に語り合っている2人を見ると、ちゃんと人と正直に向き合うことが大切なんだなと思いました。