問題を深刻化させる「見て見ぬふり」の罪深さ


実は劇中でそのセクハラ会長は姿を見せません。敢えて電話やメール越しの会話だけに留めた演出は、職場の「深い闇」をうまく表してもいます。会長本人ばかりか、見て見ぬふりするのが賢明と言わんばかりの同僚たちの姿も描かれているからです。日本でも問題を問題視しないことはあるあるです。

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『アシスタント』 6月16日(金)新宿シネマカリテ、恵比寿ガーデンシネマ、ヒューマントラストシネマ有楽町ほか全国順次公開 © 2019 Luminary Productions, LLC. All Rights Reserved.

それゆえにジェーンがこっそり相談しにいく人事部のウィルコックの対応が生々しく思えるはず。HBOドラマ「メディア王 ~華麗なる一族~」で抜け目ないトム役を演じたマシュー・マクファデインの板についたすっとぼけた演技によってなお一層そう感じてしまいます。

ひとつひとつのネタがやたらリアルで、ドラマチックに演出しないクールさには理由があります。

 

ドキュメンタリー作品『ジョンベネ殺害事件の謎』を代表作に持つキティ・グルーン監督がこの映画を練り始めた当初、女性たちから直接聞いた具体的な話を元にしたノンフィクションの脚本作品を考えていたそうです。

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『アシスタント』 6月16日(金)新宿シネマカリテ、恵比寿ガーデンシネマ、ヒューマントラストシネマ有楽町ほか全国順次公開 © 2019 Luminary Productions, LLC. All Rights Reserved.

「やがて脚本は、私が聞いた何千もの話が混ざり合い、1人の女性の目を通じて見たものに進化していきました。ドキュメンタリー作品のようなリサーチに基づいたフィクション映画、と言えます」とプロダクションノートで経緯を語っています。

しかも、この映画を作ろうとしたきっかけは、Me Too運動の発端となったハーヴェイ・ワインスタン事件だったのです。昨年10月にまさにこの事件を取り扱った映画『SHE SAID』が公開されていますが、映画やテレビ業界で働く同じ女性としてグリーン監督にとっても身近な問題に感じたのかもしれません。劇中で登場するセクハラ会長が業界の大物という設定であることにも納得です。


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ジェーンがついに確信した会長のセクハラ疑惑の行方は一旦、現実的な結末を終えますが、職場の闇に確かな疑問を投げかけたこの映画によって、現実そのものが変わっていくかもしれない。そんなことを期待したくなるような静かな力強さを持った作品です。
 

 

<作品情報>
『アシスタント』
6月16日(金)新宿シネマカリテ、恵比寿ガーデンシネマ、ヒューマントラストシネマ有楽町ほか全国順次公開

「同僚が使った食器を洗い、食事の時間も取れない…」女性のリアルな経験談から生まれた映画『アシスタント』の衝撃_img2

 

監督・脚本・製作・共同編集:キティ・グリーン
出演:ジュリア・ガーナー、マシュー・マクファディン、マッケンジー・リー 
製作:スコット・マコーリー、ジェームズ・シェイマス、P・ジェニファー・デイナ、ロス・ジェイコブソン
配給・宣伝:サンリスフィルム 
© 2019 Luminary Productions, LLC. All Rights Reserved.


構成/山崎 恵
 

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