昭和の時代は圧倒的に企業側の立場が強く、タクシー運転手が近距離の乗客に暴言を吐いたり、無理やり降ろさせるといったことがまかり通っていました。医療関係者が深刻な病気の患者に対して人権を無視するような発言を繰り返す事例も多発しています。今、病院では「患者さん」ではなく「患者様」 などという奇妙な言い方をしていますが、これも、医療関係者の暴言があまりにも激しく、メディアがそれを取り上げてハラスメントであると厳しく批判したことがきっかけです。
公務員についても同じことが言えます。今は、役所の窓口での市民の暴言が問題になることが多いですが、以前は公務員が市民に対して暴言を吐くケースが圧倒的でした。書類が揃っていない、ハンコが曲がっていると言った理由で書類を投げるように突き返すなど日常茶飯事で、筆者も以前、書類の日付を間違っただけの市民に対して、窓口の公務員が「こんなものが受理されるわけないだろう」と、大声で説教している光景を目にしたことがあります。
一連の事実からわかることは、日本社会では基本的に立場の強い人というのは、その立場を利用して弱い人を圧迫し、あるいはマウンティングして暴言を吐くという行為に至りがちだということです。
以前はたまたま消費者の立場が弱く、事業者や官庁の立場が強かったことから、犠牲者は消費者あるいは市民の側でした。ところがここ20年、不景気が続き、事業者は商品やサービスを買ってもらおうと必死です。また、公務員の態度については、マスコミが批判を繰り返したことなどにより、立場が逆転したに過ぎません。
結局のところ、強い立場の人が、弱い人をいじめるという図式そのものは昔から変わっていないのです。そして、このような行為に及ぶ人を周囲が放置すれば、確実に増長して行為をエスカレートさせます。ネットでカスハラが悪いと叫んでも、加害者は気にも留めません。本人の目の前で多くの人が毅然と対応しなければ、決して行動を改めませんし、こうしている間にも次の被害者が発生することでしょう。
本コラムを読んでいる人の中にも、自分が被害を受けなければそれでよしとして、他人の被害に目をつぶったり、自分が損したくないという理由から、強い人に忖度したり、媚びへつらったりして、誰かに被害を押しつけている人はいないでしょうか。
この話は筆者自身にも自戒を込めて書いているのですが、中国の故事成語に「隗(かい)より始めよ」というものがあります。何事もまずは目の前のことからスタートすることが重要でしょう。
前回記事「「カエルの声がうるさい」ナナメ上の苦情からわかる、日本社会の変化とは」はこちら>>
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