平穏な日常に潜んでいる、ちょっとだけ「怖い話」。
そっと耳を傾けてみましょう……。

 

第30話 土曜20時、雨の夜に

 

ピンポーン。

風呂をごしごしと洗っていると、玄関のインターホンが鳴る。土曜の20時、雨がしとしと降っている。宅配の心当たりはない。

オレは手を拭いて、急いで台所のインターホン画面をのぞき込んだ。白っぽいブラウスを着た女性が立っている。傘で顔が隠れていて、上半分は見えない。

――なんだ? 近所の人? 音楽がうるさかったかな?

オレは慌ててオーディオのボリュームを下げる。一軒家の豪邸だからって油断して、今日1日、大掃除中にガンガン音楽をかけていた。

『はい!』

急いでインターホンの通話ボタンを押す。

『スミマセン、こちら南ヶ丘4丁目ですか? 今夜宿泊予定のものです』

オレは驚いて目を白黒させた。宿泊予定? この家に?

『あの、お間違えではないですか? お探しのお宅の住所はわかりますか?』

『住所の最後は4-18です。アプリのステイハッピーで今夜のお部屋を予約しました』

オレは首を捻った。たしかそのアプリは民泊のアプリで、ずいぶんまえに何か問題が起きてニュースになったやつではなかったか。

『4-18なら、この2軒先の山田さんかも。留学生なんかを対象に、シェアハウスしてるらしいですから』

『そうですか、いってみます』

帽子で隠れて見えないが、細くて柔らかい声から、まだ大学生くらいな気がして、とりあえず知っている情報を共有した。すっと画面から消えたので、ほっとして通話ボタンを切る。

掃除に没頭していたらこんな時間。とたんに腹がぐうぐうと音をたてる。

どうせ1人だ、ビールと昨日の残り物で充分。オレはたくし上げたジャージのすそをもとに戻して、台所に立ったところで……。

「うわっ!」

思わず飛び上がる。台所の目の高さの開いた窓の向こうで、さっきの女性がひょっこりと顔を出した。

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夏の夜、怖いシーンを覗いてみましょう…。
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