自分の「好き」を自ら学習できる。自分の得意を見つけて伸ばせる。自己肯定感とコミュニケーションスキルを磨ける。世界のどこに行っても自信を持って活躍できる⋯⋯これらがこれからの未来に生きる子どもたちに必要なスキルだと、起業家の廣津留 真理(ひろつる・まり)さんは言います。
娘のすみれさんは、小中高とずっと地元・大分の公立校に通い、母・真理さんとの家庭学習をベースに、塾通いナシ・留学経験ナシでアメリカのハーバード大学に合格。それをきっかけに、真理さんは現役のハーバード生を講師として大分に呼ぶサマースクールプログラム「Summer in JAPAN(以下SIJ)」を設立。その廣津留真理さんの著書『ハーバード生たちに学んだ 「好き」と「得意」を伸ばす子育てのルール15』から、「好き」と「得意」を伸ばす親がやっているルールの一部を抜粋してお届けします。お子さんだけでなく、私たち大人にも響くメッセージがありますよ。

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「将来、何になりたい?」と聞かない
 


伸ばせない親:職業を名詞で考える
伸ばす親:職業を動詞で考える


「将来の夢は何?」
「将来は何になりたい?」
大人が子どもに聞く質問の定番ですね。物心ついた頃から社会人になるまで、子どもは何回もこの質問を投げかけられることになります。

小さい頃は、サッカー選手、パティシエ、お花屋さん、歌手など、夢のある職業名が並びます。今だったらユーチューバーも多いかもしれません。それがやがて「現実を見なければ」という意識が芽生えると、志望校の名前だったり、志望企業名になっていきます。

「進学率のいい学校に入ってほしい」「一流大学に入ってほしい」「安定した職業に就いてほしい」「大企業に勤めてほしい」と思っている親が多いからこそ、そんな親の思いをキャッチして、子どもも将来の夢を「現実的に」軌道修正していくのかもしれません。

けれど私は、本当に子どもを伸ばしたい、と願うのなら、将来の夢を「名詞」で答えさせようとするのは、やめたほうがいいと思っています。
 

150年前の言葉の真実


アイルランド出身の19世紀の作家オスカー・ワイルドはこう書いています。

もしあなたがグローサリーの店主や軍人、政治家、裁判官などになりたいとしたら
当然目指した者になってしまう。
それがあなたへの罰だからです。
もしなりたいものを決めずにダイナミックでアーティスティックな人生を歩めば、
もし毎日自分のことを決めつけずに人生を過ごせば、あなたは何にでもなれるのです。
それがあなたへの報いなのです。

オスカー・ワイルドは、「現実を見なさい」という若者に対する声かけがそもそも間違っていると語りかけています。

人はひとたび「軍人」「政治家」「裁判官」といった名詞を目指してしまうと、それ以上の人間にはなれません。大人が子どもに、「将来あなたは〇〇になりなさい」「△△学校の生徒になりなさい」と名詞を目指すように仕向けるのは、子どもにあらかじめ限界を作ってしまう「罰」だというわけです。

そもそもこれだけ激動している時代、その職業が未来も今と同じように輝かしいものであるとは限らないし、目指す職業がいつまであるかも分かりません。その職業がなくなってからでは、「他に目を向けさせてもらえなかった」と親や自分を恨んでも遅いのです。

今、世の中にないものを形にするクリエイティビティも育ちません。名詞を目指したばっかりに「罰」を受けることになってしまうわけです。

けれど、どんな親も我が子には、自らの可能性をできる限り伸ばして、その未来を輝かせてほしい、と願っていることでしょう。では、子どもを伸ばしたい親は、どのように声をかけるべきなのでしょうか。
 

ハーバード生の親が子どもにかける言葉


SIJで講師をお願いする学生は、ハーバード生100人余りの応募から、私自身が毎年、書類と面接で選抜しています。「親から言われてとくに今の自分に影響を与えている言葉は?」と聞くと、彼らが決まって口にする言葉があります。

それが”Make an impact(社会に影響を与える)”です。
彼らは、親御さんにことあるごとに”Make an impact(社会に影響を与える)”と励まされて育ったというのです。彼らは成長過程で決して「〜〜になりなさい」という名詞を目指すようには言われていません。「世界に、社会に影響を与えなさい」と「動詞」で活躍するように励まされて育っているのです。

「社会を変えよう」と思って育てば、”You can be anything!(何にでもなれる!)”です。
一方で「お医者さんになりなさい」と言われて育てば、お医者さんにしかなれません。も
しなるなら、Make an impact なお医者さんになってほしいですよね。

ハーバード生がよく使う言葉がもう1つあります。
それは”Grow out of your comfort zone.(自分の殻から抜け出せ)”。
現状を打破するところに自分の役割や未来を見出しているので、既存の職業名を目指すことには価値を置いていないのだということが分かります。

今、社会的に成功している人を思い浮かべても、職業名や肩書きという「名詞」にとらわれている人は少ないように思います。たとえばホリエモンや前澤友作さん、イーロン・マスクやビル・ゲイツの職業が何なのかは、一言では答えられないですよね。マーク・ザッカーバーグだって「Facebookというプラットフォームの創始者になろう」と思って今の立場になったわけではないはずです。時代を読み、自分を信じて、常に殻を破る「ダイナミックでアーティスティック」な生き方を実践する人が、成功者になるのではないでしょうか。

それは、地道に自分の好きなことを継続し、スキルを伸ばしていった先に「動詞」での活躍があるのであって、あらかじめ「~~になる」と決めて即席講習で身につけたスキルで職業を手に入れるのとは異なります。
 

「動詞」で生きよう!


たとえば知り合いのMIT(マサチューセッツ工科大学)の学生に、ノンネイティブの人も英語でスピーチをできるようになるメソッドを開発している子がいます。これも、彼が自分の得意なことを磨いていって、Make an impactしよう、とした先に見つけたビジネスなのだと思います。

「社会を変えよう」と言っても「世界で活躍しなきゃ」と大げさに考える必要はないのです。世界196カ国にMake an impactする必要はなくて、まずは自分の知っている世界で小さなインパクトを起こす。そこからでいいのです。

人は、名詞を目指すのではなく、動詞として生きていく。これを子育てをするうえで心に刻んでおけば、お子さんの未来は限りなく開けていくはずです。