「お前は心から仕事してない」上司の言葉で気づいたこと


——仏教の教えがいろいろある中で、「利他」の教えが好きだそうですね。実際に他人のために尽くして、自分が幸せになったと感じるようなエピソードがあればお聞きしたいです。

古溪 「帝人」で働いていて、ヘルスケア医療の部門担当をしていました。その中でも医療機器営業をやっていたんです。似たような機械を扱っている会社は何社かあるので、ドクターを訪ねて行って、「うちの機械を使ってください」という営業です。商談の時間が10分だとしたら、自社製品の話や新サービスの話を8分ぐらい、ばーっと話していました。それでも売れたんです。

「普通の会社員になるのが夢だった」。上場企業で成績優秀、モテ人生を歩むも、満たされなかったもの【僧侶・古溪光大さん】_img2
 

古溪 それで、営業会議で褒められると思っていたら、上司からは逆に「お前は心から仕事してないからな」ってボソッと言われたんです。それは当たっていました。他人から評価されるために仕事をしていたけど、その機械を使ってくれる患者さんのことなんて考えていなかった。目の前の機械1台が売れればいい。だから、その機械が手元に届いて、実際に患者さんがそれを使うことは全然想像してないし、それは関係ないことだと思っていたんです。

 

でも、その機械があることで、よりよい生活を送ることができるようになってもらうのが、本来の目的ですよね。そこが抜け落ちていました。「患者さんのためにとか、世の中のために仕事するっていう意識に変えたら、また違った可能性があるかもよ」と上司に言われたので、素直に、「数字が上がるんだったら、そっちのやり方でやってみよう」と思って、製品の話をするのをやめました。