不倫された妻=「サレ妻」の悩みの一つに、「夫への執着を捨てられない」というものがあります。執着というドロドロした感情が、自分の中にあると認めるのはなかなか苦しいもの。10月13日に1巻が発売された『サレ妻シタ夫の恋人たち』は、夫に不倫された妻と、その夫と不倫相手の女性の三角関係を描いただけでなく、サレ妻の「執着」を表情で描き出しています。

結婚四年目でそろそろ子どもが欲しくて妊活をしている鴛田(おしだ)もか。4000円もする排卵検査薬を買っては夫・正臣と子作りをするタイミングを計っています。

彼女は正臣の顔がどタイプ。外見だけでなく中身も優しい彼ですが、長い間、彼から夜の営みを求められていないと気づいてしまった彼女は、親友から夫が見知らぬ女性と表参道で歩いていたのを見たと聞かされます。

 

家で「ありえない」と笑いながらも、その晩、疲れている彼に頭を下げて子作りのためのセックスをお願いするもか。夫の不倫疑惑の不安から逃れるかのように、「まずは妊娠しよう」と必死になるのでした。

翌日、彼女は家事代行のバイトである家に向かいました。そこは有名小説家のイケメン京男・三角和寿喜(みすみ・かずき)の自宅でした。彼に思わず不安な気持ちを漏らしてしまうもか。

 

そして、正臣はやっぱり不倫をしていたのですが、その相手は因縁を感じる女性だったのです⋯⋯。

 

サレ妻・もかは健気で可愛いだけじゃない


女性目線からの「サレ妻・シタ夫」ものというと、完全に夫側が「悪」で、妻側は可哀想な存在として描かれていることが多いのですが、本作はそうではないのがミソ。
「サレ妻」もかは、普段は穏やかそうな雰囲気のお掃除好きな女性。でも、夫との子どもができれば夫婦関係が強固なものになる、幸せになれるはずと信じ切っています。その真っ直ぐすぎる性格が読んでいくうちに「あれ⋯⋯?なんかこの妻って怖くない?」と感じてきちゃうのです。

 

夫が不倫している証拠を集める段階でも、一直線で感情のままに動いているので、彼女に協力することになった三角に止められるシーンもあり。絶対に夫を手放さない! という執念を感じてしまうのです。表情の描きわけの落差を見ていると、「サレ妻」は可哀想なだけじゃない、というのがテーマの一つにありそう。

裏と表を描かれているのは妻だけではない


そして、本作の「そうくるか」という、先が読めそうで読めないこの感じはなぜなんだろうと思ったら、主人公・もかの「裏と表」だけでなく、夫や不倫相手の女性の「裏」も描いているからだと気づきました。各キャラの考えていることがモノローグではっきり言語化されているので、彼らの行動に納得がいくんですよね。まずは、夫・正臣の「俺が望むように事を運びたい」という思い。

 

優先席に座りながらこう思っている彼の「望み」は、不倫相手の女・凛にずっと求められること。一方、当の凛は正臣に「奥さんに優しくしてあげて?」と頼みます。彼女はこの言葉の意味として「不倫を楽しむため」だと加えるのですが、その真意は後から彼女のモノローグで明かされます。これが結構エグいんです⋯⋯!

 

もかの不倫調査に協力してくれることになる三角は、途中までは、もかの相談の聴き手ポジションで「粗」が見えてこないのですが、彼女・夫・不倫相手の三角関係に引きずり込まれていく今後はきっと意外な「裏」が出てくるはず。

こじらせているのは、それぞれの「執着」なのかも


そして、もう一つのテーマはそれぞれの「執着」です。登場人物何かにこだわっていて、それを手放したくないのです。もかは、正臣との子が欲しくて妊活にこだわって、何も考えないようにしようと思いつつも、すぐに「やっぱり赤ちゃんが欲しい」と立ち返ります。正臣は、不倫相手の凛とどうしても関係を切りたくなくてバレそうになってもやめられない。その凛も、正臣との関係で、ある種類の欲望が満たされるのを見出していて、ずっと彼の心をつなぎ止めておきたいのです。

 

彼らは自身のこだわりに気づけないまま、それぞれに暴走して後戻りできないところまで歪んでいってしまいそうな不穏さが漂う本作。夫婦関係を歪ませるのは、強い執着心なのです。

 

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<作品紹介>
『サレ妻シタ夫の恋人たち』
村岡 恵 (著)

 大好きな夫との結婚生活も4年目に突入、そろそろ子どもが欲しい鴛田(おしだ)もか。 ある日親友から、もかの夫がほかの女性と歩いているのを目撃したと聞く。 夫が不倫するはずがないと信じるもかだが。 妊活、不倫、三角関係? 夫婦に訪れる不穏な予感。仲良し夫婦の「賞味期限」。

作者プロフィール 

村岡 恵 :

代表作に『私のわんこはキスを待てない』(講談社)、『人狼執事の物騒な日課』(小学館刊)など。現在、『BE・LOVE』(講談社)にて『サレ妻シタ夫の恋人たち』を連載中。
X(旧Twitter)アカウント:@bananam313
Instagramアカウント:@muraoka_megumi


構成/大槻由実子
編集/坂口彩