親が不安や恐れを感じることは、育児放棄や攻撃をもたらす脳の働きにつながる
最近の研究では、マウスの脳では「子どもを守りたい」という強い本能的欲求が起きる場所(cMPOA)と、育児放棄や子どもに対する攻撃を引き起こす場所が近くにあることがわかっているそうです。この二つの場所の働きはトレードオフの関係にあり、一方が強まると一方が弱まります。親が強い不安や恐れを感じるなどして、個体として生きていく上での安全が得られないと、脳は「今回の子育ては諦めて、とりあえず生き延びよう」という反応を示し、cMPOAの働きが抑制されます。その結果、子どもを放棄したり攻撃したりするようになるというのです。
このことから、本来共同養育を行うヒトが育児中に孤立したりDVを受けたりして強い不安や恐れを感じると、cMPOAの働きが抑制されて、育児放棄や虐待につながってしまうのではないかと推論され、研究が進められているそうです。
「子育ては母親がやるべき」「育児は全て親の責任」という押し付けは、むしろ親を追い詰め子育てを困難にしてしまいます。よく、ネットで有名人の家族の在り方に文句をつけて「子どもが可哀想」と叩く人たちがいますが、本当に子どものことを思うなら、親に嫌がらせをしてストレスを与えるようなことはするべきではありません。
研究では、親性脳のネットワークをうまく働かせることができない理由は人それぞれに違うと指摘されています。自身の生育環境に問題があったことが影響していることも、DVや社会的孤立、経済的困窮などが理由のこともあります。ワンオペ育児で疲弊して子どもを可愛いと思えない……と悩むのは、その人の母性が足りないからではなく、そもそもヒトがそのように育児するように進化してこなかったからなのです。ではなぜ父親が育児をしようとしないのかにも注目することも重要です。社会がするべきことは、親たちが健やかに親性を働かせることができるよう、子どもを持つ初期の段階から親を支え、必要な個別のサポートを提供することです。心構えがなっていないとか、甘えていると責めることではありません。それでは育児放棄や虐待を防げないのです。
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