多くの作家たちが行き交ったロビー

時を経て深みある色合いになった家具の魅力的なこと。

ロビーには書物机があり、今も辞書が置かれています。池波正太郎は朝になるとよくここで調べものをしたと言います。また、個性豊かな作家同士。時には相容れない人間関係があり、このロビーで鉢合わせしないよう、スタッフたちは臨機応変に連携・対応をしたという逸話も残っており、その話を聞くだけでもなんだかワクワクしますよね。

ロビーで使われている家具は大正時代に創業した横浜の「ダニエル」によるオーダーメイド、「青山さるん(現在の「ACTUS」)」が納入したノルウェーのバットネ社のもの。長い年月を経てきた家具は、今や深みある色合いになり、落ち着いた空間を演出しています。

 


わずか9席の英国式バー「バー ノンノン」

多くの作家が部屋での執筆がひと段落すると降りてきて、お酒を飲んだといいます。

ロビーに面した一角には、吉行淳之介のコラム「トワイライト・カフェ」(日本経済新聞)の舞台にもなった「バー ノンノン」が、今も静かにあります。ホテル創業時よりここで多くの作家や文化人たちを迎えたと言います。
 

唯一無二。味のあるイラストと手書き文字を手がけた遠峰健

チェックインの際に出されるお茶や、レストランやバーでの1杯に敷かれるコースター。

ホテル内のあちこちで見かける、やわらかくも個性的な文字。これらはすべてホテルの創業者である吉田氏と親交があった、東京藝術大学出身の画家・遠峰健によるもの。ホテルのロゴも遠峰氏が手がけたといいます。

ドアノブプレートも遠峰健によるデザイン。

どこかユーモラスなドアノブプレート。ウィットに富んだ遠峰氏の文字やイラストは、1つ1つがホテルの魅力につながっています。
 

ホテル各所の飾られた赤いバラのお話

フロントにも一輪、赤いバラが飾られています。

創業当時から客室に一輪の赤いバラを飾ってお客さまをもてなししていたそう。現在も客室のほか、フロントや廊下、レストランにも赤いバラが飾られています。

ケーキのお皿の下に敷かれた特製ランチョンマットのレースの縁取りがバラなのも、このおもてなしの習慣を取り入れたデザインにしたからです。

文豪たち、そして時代を越えて今や若い人たちにも愛されてきた都心の小さな名ホテル。再開時期は今のところ未定とされていますが、いつか必ずまた訪れることができる日を願って……!
 


構成/佐野倫子
 


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