猫と一緒に暮らす人にとっては、家族のように大事にしている猫と1日でも長く暮らせるのは幸せなことです。その一方で、猫も飼い主も年齢を重ねていくことになります。

それでも、猫とともに暮らしてきた時間はかけがえのないものですし、シニアになった猫だからこそ、愛着もひとしおです。そこでミモレでは、シニア猫(ここでは10歳以上と定義)と暮らす人たちのお話に耳を傾けてみようと思っています。

今回登場するMさんは、神奈川県央のとある街にあるシニア向けマンションで、夫と17歳の猫・キラちゃんと一緒に暮らしています。キラちゃんは2019年に突然体調を崩し、脳の病気が発覚しました。獣医師には「治療しようがないし、このまま世話をするしかない」と言われてしまいます。ともに70代のMさん夫婦がキラちゃんを介護する生活が始まって今年で5年目。キラちゃんは寝たきりで立ち上がることはできませんが、生きようとする気力が衰えることはなく、Mさん夫婦もそんなキラちゃんファーストな日々を過ごしています。

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体の自由がきかなくなり、寝たきり状態のキラちゃん。目が見えないのだけど、目には強い意思が感じられ、愛らしい表情を見せる(写真:Mさん、一部ライターが撮影)
<飼い主プロフィール> 
Mさん(70代)
横浜市内に住んでいた時、タラちゃんという猫を飼っていて、20歳で見送った経験あり。2006年に地域猫を世話している近所の人に、「猫が2匹生まれたから、もらってくれない?」と相談され、1匹だけ引き取ったのがキラちゃん。2012年にペット同居可のシニア向けマンションに転居後、キラちゃんが脳の病気を発病。5年前から夫婦でキラちゃんを介護している。
<同居猫プロフィール> 
キラちゃん(17歳)
キジトラ柄のメス猫。2006年に、横浜市内の地域猫が出産した子猫のうちの1匹。好奇心旺盛で活発な猫で、病院とも無縁だった。2019年に突然不調となり、脳の病気が発覚。一時期は食べ物を受け付けず、約4kgあった体重が1.5kgまで減ってしまうが、その後は食欲を取り戻し、現在は約3kgまで回復。5年間、寝たきり状態が続いている。


地域猫出身のキラちゃんと一緒に、シニア向けマンションに引っ越してきたのは、東日本大震災の翌年である2012年のこと。当時のキラちゃんは活発で、家の中を走り回り、時には部屋から飛び出してしまうほど。階段を降りて下の階まで行ってしまったこともありました。とても元気で、ほとんど病院にかかったこともありませんでした。 

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部屋を飛び出して廊下で座っているところを、ご近所さんが撮影

2019年、13歳になったキラちゃんのお通じがなくなったので、病院に連れて行きました。血液検査やレントゲンなど、一通り検査をしてもらったところ、「脳の病気かもしれない」と言われました。一軒目の病院では、注射を打って入院することになったのですが、翌朝、病院から電話があって、「手に負えないから引き取ってほしい」と言われました。

その病院から戻った後、どんどん体調が悪くなっていきました。今から思えば、治療を任せきりにするのではなく、何の注射を打ったのかなど、もっといろいろ確認しておくべきでした。それに「手に負えない」なんて言われて、とてもショックでした。

その後、積み上げていた布団の上から落っこちて泡を吹いてしまったり、てんかんの症状が起きたりしたため、別の病院に連れていきました。そこでもやはり「脳の病気」と言われました。年齢的にも積極的な治療は難しく、病名を明らかにするために検査を重ねるのは、キラちゃんのさらなる負担になるのでやめました。獣医師にも「これ以上ストレスをかけないほうがいい」と言われ、私もそう思ったからです。

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闘病生活の間に、ヒゲがすっかりなくなってしまったそう

ほどなくしてキラちゃんは立ち上がることができなくなり、寝たきりの生活が始まりました。ご飯を全然食べなくなったため、約4kgあった体重がみるみるうちに1.5kgまで減ってしまいました。もうだめかもと諦めていたところ、キラちゃんの口元にご飯を持っていくと舐めはじめ、急にご飯を食べるようになったのです。水も自力で飲むのが難しく、シリンジで水を口の中に入れてやりました。

 
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