松本氏は誰もが知る著名人であり、公共の電波であるテレビ番組に数多く出演しています。また、一連の出来事を受けて、多くの関係者から松本氏について「かけがえのない才能を持つ人物」「エンタメ界になくてはならない人」「このままでは日本の宝が失われてしまう」「松本さんのお笑いで救われた人は数え切れないほどいる」など擁護する発言が相次いでいます。彼らが主張するように松本氏には余人をもって代えがたい才能があり、氏が日本のエンタメ界を背負っているということであれば、明らかに公益性が存在するという結論になるでしょう。

そうなると次に問題となるのは週刊文春がしっかりとした取材をしたのかというところに論点が移ります。

週刊文春を発行する文藝春秋本社ビル。写真:アフロ

ここで重要なのは、冒頭にも説明した通り、争点は名誉毀損ですから、実際にそうした行為があったのかではありません。文春側が被害者女性の告発を鵜呑みにせず、関係者などにも丁寧に取材し、性加害があったのではないかと十分に判断できる材料を揃えていれば、(実際に行為があったのかどうかには関係なく)名誉毀損は成立しません。

 

簡単に言ってしまえば、文春が杜撰な決めつけ取材で記事を書いていれば文春が負けますし、しっかりと取材をしていれば(仮にそうした真実を立証できなかったとしても)松本氏が負けるという図式です。実際にどうなるのかは、裁判が始まってみなければ分かりませんが、名誉毀損の裁判に関する一般論で考えると上記のようになります。

テレビなどで解説している弁護士の中には、名誉毀損の案件をほとんど扱ったことがないと思われる方もいて、的外れなコメントをしているケースが散見されます。法がカバーする範囲は膨大であり、弁護士さんといえども、自分がカバーしている分野以外はあまり知識がないというのはよくあることです。

実際に弁護士さんと仕事をするとよく分かりますが、本当に千差万別で、凄まじい能力を持つ方もいれば、誠実に勉強を積み重ねる方もいますし、一方でまったくお話にならないという人も少なくありません。当該分野での経験や慣れというものも重要ですから、双方がどのようなキャリアの弁護士を雇っているのかも、裁判の行方を大きく左右する可能性があります。

繰り返しになりますが、今回の裁判では、性加害の有無について白黒を付けることができない可能性がそれなりに高いですから、裁判に対してあまり過度な期待は持たない方がよいでしょう。

前回記事「容姿への発言も問題視せず...上川外相の「大人の対応」が、日本には大きな損失でしかない理由」はこちら>>

 
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