円卓での会談や和食――賓客へのおもてなしの小さくて大きな改革
――海外からの賓客へのおもてなしにも、これまでとは異なった対応をされていますね。
大久保さん:はい、そうなんですね。小さな変化かもしれませんけれど、実は大きな変革を意味するかも知れない工夫を二つされています。
一つ目は、賓客をお迎えして会見する際に、部屋の中央に小さな円卓を置かれるようになったことです。昨年3月13日にアフリカ・アンゴラのロウレンソ大統領夫妻をお迎えした席では、円卓を囲んで天皇陛下と雅子さま、ロウレンソ大統領夫妻が同じ話題で意見を交わされました。それまでは、部屋の壁沿いに椅子が置かれていたため、隣の人としか話ができず、陛下は主賓と会話され、雅子さまは主賓のパートナーとしかお話しできない形式だったのです。
個別に椅子を並べるか、一つの円卓を囲むかで、会話の内容に大きな違いが出る可能性がありますよね。元首同士の会話にパートナーを交えれば、ご夫妻で話題が共有できますし、お互いの立場や国の理解がより一層高まります。なにより自然体ですし、性差や立場をフラットにする効果もあります。「ともに同じ話題を共有しながら会話するのが大切」とお考えになって、両陛下が提案されたのです。
二つ目は、会食に和食を取り入れるようになったことです。皇室では明治時代からこれまで、外国から賓客を迎えての会食はずっとフランス料理で接遇してきました。
昨年11月17日、中央アジアのキルギス共和国のジャパロフ大統領夫妻を皇居・宮殿にお招きした際の午餐会(昼食会)では、和食を知っていただこうと、フランス料理の前菜として手まり寿司が出されました。コロナ禍で飲食を伴う行事を控えていたため、宮中で午餐会(昼食会)が開かれたのは4年ぶりのことでした。
さらに、同月28日に行われたベトナム国家主席との午餐会では、和食の前菜に加えて、食前に日本酒で乾杯を行いました。少しややこしいのですが、午餐会のときには、乾杯は食事の最後にします。でも、晩餐会では食事が始まる前の冒頭に乾杯をします。ベトナム国家主席の午餐会では、晩餐会と同じように食事の前に乾杯を持ってきています。これも両陛下が提案されたことでした。
さらに今年に入ってからもアフリカ・ケニア大統領夫妻を迎えての午餐会でも和食が前菜として振る舞われました。この時、愛子さまが初めて午餐会に出席したことでも注目されましたね。
――和食を知ってもらうのがねらいなのに、食事のあとでは日本酒の味がわかりにくくなってしまうからかもしれませんね。最初にいただいた方が、繊細な日本酒の味を楽しんでいただけますよね。
大久保さん:平成25年(2013年)に、和食がユネスコ無形文化遺産に登録されました。そのときに、なぜ皇室の接遇を和食にしてこなかったのか調べたことがあったんです。先ほどもお話したように、明治からずっと日本の皇室ではフランス料理で接遇して来ました。世界にも認められた和食でもてなせば、日本の食文化も世界のVIPに知ってもらういい機会だと思いました。
すると、「日本料理はさまざまな器をそろえなければならず、サーブの回数も多くなり難しい」という説明でした。まったく検討しなかったわけではないけれど、舞台裏の台所事情もあるというのですね。そうした課題もある中で、両陛下はなんとか和食も海外からのお客さまに知っていただきたいというお気持ちから、まずは前菜のみ和食にという新しい試みをされたのでしょう。
前菜のみという小さな変化ですが、明治以来100数十年も続けてきたことを変えるのは、かなり大変なことなのです。過去にとらわれず時代に合わせて少しずつでも変えていこうというお二人の気持ちが表れていると思います。
意識的な変化への対応は、両陛下のまず形から変えていって、いずれ皇室のスタイルを「令和流」と言われるようなものに変えていこうとされている姿勢の表れだと思います。小さな変化を見逃さずにウォッチしていきたいですね。
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