「クワイエット・ラグジュアリー」という言葉が、ファッション界の一大トレンドになっていることをご存じでしょうか。お隣のメイクアップの世界では、韓国発の「ミュートメイク」がブームの兆しです。
クワイエット(Quiet)もミュート(Mute)も、どちらも「静かな」という意味。そう、おしゃれ業界では今、「静かな装い」がビッグトレンドになっているのです。そしてその傾向は、実はキャリア・働き方の分野でも。
「静かな退職(Quiet Quitting)」という言葉を聞いたことはありますか?
実際には退職せず会社に勤務してはいるものの、仕事へのやりがいは求めず、淡々と業務を遂行する働き方のことをそう呼びます。
「好きを仕事に」とか、パーパスのある仕事とか、起業や副業・プロボノとか……。仕事を単に、「給料を得るための労働」とみなすのではない価値観が社会に根付いてきたように感じます。しかしそれは、「自分自身」と仕事の境界が曖昧になり、毎日が仕事で埋め尽くされる「沼」のはじまり。そのことに気づき、そこから出ていこうとするのが、「静かな退職」なのではないでしょうか。
人生を仕事から取り戻すための、シンプルな「認識」
自分や人生に「静けさ」を取り戻すというのは、まさに「静かな」大ブームとなりつつあるようです。
私たちはいつの間に、仕事を人生の真ん中に置くようになったのだろうか?
すべてのワーカホリック・仕事人間に伝えたい、「ほどよい仕事」という新しい働き方とは?
本書を書いたのは、有名コンサルティング会社に勤務していた元・ワーカホリックさん。仕事にやりがいを求め、働く快感に麻痺し、「仕事の評価=自分の評価」と感じてしまう……。本に登場するのは、有名レストランと組んで起業した若きシェフ、高校時代に書いた記事がバズった著名な雑誌編集長、仲良し家族のようなベンチャー企業で楽しく働いていた男性などなど。彼ら「“元”ワーカホリック」の物語を通して、現代病ともいえる「働き過ぎ」問題を考えるための一冊です。
本書の原題は「The Good Enough Job(ほどよい仕事)」であり、「静かな働き方」は日本語訳のオリジナルタイトル。しかしこの本で書かれていることは、自分と仕事を近づけすぎず、人生を自分の手に取り戻すための働き方。前述の「静かな退職」は、「The Good Enough Job」に含まれる一つではないかと思います。
多くの知識人が、AIやITテクノロジーの進展により、私たちの労働環境は改善され、労働時間は短くなるはずだと予想していました。しかし実際に起きていることは、長時間労働や人間関係を原因とする「バーンアウト」現象、メンタルダウンの蔓延、「やりがい搾取」と揶揄される低賃金労働問題……。そこまで極端でなくても、仕事の都合を中心に生活リズムを決めたりすることは多くの人にとって当たり前のことになっているのではないでしょうか。
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