日本に1700万人※いるとされる40代~50代のミドルエイジ女性。どうしたらもっと軽やかに、自分らしいキャリアを築いていけるのか。この問いを模索するべく、キャリア研究の第一人者・高橋俊介先生と、“キャリコン編集長”としておなじみミモレの川良咲子編集長の対談が実現。
※令和5年度 総務省統計局人口推計より

お二人のお話を、アスリート→民間企業の広報→建築学生→家業の三代目修行中というキャリア(と、言ってよいのでしょうか?)を持つ私、吉澤穂波がお聞きしました。

 

高橋俊介(たかはし・しゅんすけ)さん(写真右)
1978年東京大学工学部航空工学科卒業後、日本国有鉄道に入社。1984年プリンストン大学院工学部修士課程を修了し、マッキンゼーアンドカンパニーを経て1989年ワイアット(現ウイリス・タワーズワトソン)に入社。1993年代表取締役社長に就任。1997年に独立、ピープルファクターコンサルティングを設立しコンサルティング活動や講演活動、人材育成支援等を行う。2022年4月より慶應義塾大学 SFC研究所上席所員。主な著書に『キャリアショック』(ソフトバンククリエイティブ)、『自分らしいキャリアのつくり方』(PHP新書)、『キャリアをつくる独学力――プロフェッショナル人材として生き抜くための50のヒント』(東洋経済新報社)など

川良咲子(写真左)
1976年生まれ。1999年講談社に入社。「FRaU」で14年間ファッションと読み物記事を担当し「with」を経て、2015年に「mi-mollet」へ。2019年7月にミモレ編集長に就任。二児の母。2022年1月より国家資格キャリアコンサルタント。

 

 


「無駄なく、効率よく、計画通り」の落とし穴


——以前のインタビューで「人生にムダはありません。ムリ・ムダ・ムラが大切です」とおっしゃっていたのが印象的でした。さらにご著書では「『無駄なく効率的に』をキャリアに当てはめることには大きなリスクがある」と記されています。その理由を改めて教えてください。

 

高橋俊介さん(以下、高橋):人類は狩猟採集、農耕中心の社会から産業革命を経て工業化社会になりました。工業化社会での最高の生産性の上げ方は、詳細な計画を立てて、その通りに実行すること。その間、世界の企業では「いかに無駄なく、効率よく、計画通りの生産をするか」が最重要とされてきました。これが工業化社会のパラダイムです。

キャリア形成についても、1990年代までは会社が示したキャリアパス、計画に沿って“キャリアのはしご”を頑張って上っていけば、豊かになれる、欲しいものが手に入る時代でした。

川良咲子(以下、川良):確かにそうですね。ビジネスやキャリア形成の場面だけでなく、私たち世代は小さいころから学校や家庭で「計画を立てなさい、目標を立ててそれを達成するために頑張りなさい」と教え込まれて、身体に染み付いています。

高橋:そうでしょう。しかし、IT社会となるとともに、「VUCA※の時代」とも呼ばれる「変化が激しく予測がつかない社会」となった現代では、いろいろな場面で工業化社会のパラダイムが通用しなくなっています。
※VUCA……Volatility(変動性)、Uncertainty(不確実性)、Complexity(複雑性)、Ambiguity(曖昧性)の4つの言葉の頭文字から作られた造語

キャリア形成についても同様で、効率やムダの排除を追求すれば、大きな変化が起こった時、計画通りにいかなかった時に対応できなくなってしまう恐れがあります。私たちは工業化社会のパラダイムに捉われず、発想を変えていく必要があるでしょう。

そして、キャリア形成の大部分は偶然の出来事に左右されており、計画的・自分の思い通りに作れるものではないことを前提にしたほうがいいのです。