一方、諸外国の場合、基本的に職種によって人を採用しますから、年齢が上がっても多くの人が同じ業務に従事します。こうしたやり方であれば、人口構成が変化しても企業の運営にはそれほど大きな支障は生じません。総人口が1億人であっても8000万人であっても、例えば2割の人が当該業務に従事する必要があるのなら、それぞれの人口規模に応じて従事者が仕事をすれば良いわけです。

ところが日本の場合、現場仕事に従事するのは若い人だけですから、若年層人口の比率が低下していくと、必然的に現場仕事に従事する人が足りなくなるという現象が発生します。こうした人事体系は日本だけに見られる極めて特殊なものであり、諸外国ではまず目にしません。このため極度の人手不足という問題は日本で顕著に発生することになるのです。

この話を聞くと、現場から離れた人をまた戻せばよいと思うかもしれませんが、仕事というのは続けていてこそスキルが上がっていきますから、一度、現場を離れてしまうと元に戻すのは簡単ではありません。

一連の事態を改善するには、人手が足りない仕事には高い賃金を提示し、新卒の希望者を増やすと同時に、外部から積極的に転職を促すよりほかありません。同時にIT化、自動化を進め、より少ない人数で、同じ仕事を回せるようにする必要があります。

つまり、今、起こっている人手不足の原因ははっきりしており、対応策も分かっているのですが、なぜか経済界は対処してきませんでした。なぜそうなってしまうのかという原因を端的に示しているのが、冒頭に紹介した経済界リーダーの昭和的価値観です。

2018年11月、大阪万博の開催決定を喜ぶ世耕弘成経済産業大臣(当時)、松井一郎大阪府知事(当時)、松本正義関西経済連合会会長。写真:AP/アフロ

日本ではいまだに、すべての物事は気合いや精神で乗り切れると考えている人が大勢いて、科学的に状況を分析し,合理的な解決策の提示を忌避する傾向が顕著です。先ほどの経済界トップの発言を聞くと、科学技術の粋を集めた米国の大型爆撃機B-29に対して、竹槍で戦おうとした戦時中の日本と何も変わっていないように思えます。

繰り返しになりますが、今、日本で起こっている人手不足は構造的な問題であり、その場しのぎや気合いで乗り切れるものではありません。物流問題は宅配など身近な問題に直結していますから、とても分かりやすいですが、人手不足による問題は、電話や水道などの公共インフラや住宅のリフォーム、飛行場の運営など、ありとあらゆるところに及んでいます。

人やモノの移動が妨げられれば、当然それはコストとなって跳ね返ってきますから、私たちの生活を圧迫する要因となりますし、安全性や経済の成長も阻害される可能性が出てきます。ここまで状況が深刻化しているにもかかわらず、経済界の中枢を担う人物から、安易な精神論が飛び出してくるというあたりが、問題の深刻さを表していると言えるでしょう。

 

前回記事「松本人志問題への「真実は裁判ではっきりする」という大誤解。名誉毀損の焦点は“行為の有無”よりも...」はこちら>>

 
  • 1
  • 2