「日本万国博覧会誘致委員会発足式」記者発表での松本人志氏(2017年3月当時)。写真:アフロ

お笑いコンビ「ダウンタウン」の松本人志さんが、女性に対して性行為を強要したなどと報じた週刊誌記事をめぐり、文藝春秋社などに対して名誉毀損の訴訟を起こしました。一連の出来事について、多くの人が、裁判になれば松本さんが本当に性加害を加えたのか白黒がつくと考えているようです。

 

ひょっとすると松本さん自身や所属事務所である吉本興業も同じように考えているかもしれませんが、現実の裁判は多くの人の想像とは異なります。あくまで一般論ですが、この裁判では性行為強要の有無については争われず、多くの人が求めている白黒はつかない可能性が高いと考えた方がよいでしょう。

筆者は弁護士など法曹界の人間ではなく、実務家として名誉毀損などの裁判に関わったことがあるという立場ですので、あくまで一般論ということでご理解ください。

今回の裁判は、被害者の女性が訴えているのではなく、記事で名誉を毀損されたと主張している松本氏が起こした裁判です。したがって裁判で争われるのは、松本氏の名誉が毀損したのかどうかであって、松本氏が加害者だったのかではありません。

通常、公衆の面前でその人を貶める発言を行えば、それが事実かどうかには関係なく名誉毀損が成立します。今回、週刊文春は何十万人あるいは何百万人もの読者に対して、松本氏が性加害を加えたと報じたわけですから、本来であれば自動的に名誉毀損が成立します。しかし名誉を毀損する行為を行っても、適用除外になるケースがあります。そのひとつが公益性・公共性です。

公益性は少し想像すれば分かると思いますが、政治家のスキャンダル報道などがこれに該当します。今回同じタイミングで、安倍派を中心とした自民党の派閥がウラ金を作り、それを収支報告書に記載していなかったことが問題視されています。もし公益性という概念がなければ、特定の政治家がウラ金を作ったと言ったり、書いたりしただけで名誉毀損が成立してしまいます。私たちが政治家のことを躊躇なく批判できるのは、公益性・公共性があれば名誉毀損にはならないという民主国家の大原則があるからです。

そうなると、今回の報道の公益性がまず問われることになりますが、普通に考えると、これも自動的にクリアしそうです。

 
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