「マイレージ上級会員」という甘美な仕組み


武志さんが、航空会社のマイレージサービスにはまったのはあるきっかけがありました。

6年前、学会で地方に1泊出張が入った武志さん。その少し前、職場で上司にあたる院長から紹介マイル目当てで勧められたマイレージサービス。お互い相当の特典があるキャンペーンということで、付帯クレジットカードを作っていました。

 

するとその出張で、武志さんは予想外の体験をしたといいます。入会特典のマイルで飛行機を取り、かついい座席にアップグレード。航空会社の系列ホテルにしてカードを提示したところ、たまたま希望のクラスの部屋が満室だったようでこちらもデラックスルームにアップグレード。そして出張関連の支払い履歴とマイル倍増ショッピングキャンペーンのおかげで、後日さらに札幌片道航空券をゲットしたというのです。

これが元来「お金に厳しい」「情報マニア」の武志さんのハートをわしづかみにしました。もともと凝り性で、リサーチするのは得意。どんどんマイルハックの方法を学習したといいます。

 


「そこまではまったくかまわないんです。貯めたマイルの恩恵はこちらには回ってきませんでしたが、まあ彼が勝手に頑張ってることだったので。でも半年もすると、まずはマイレージサービスが付帯した家族クレジットカードを渡されます。

生活費はすべてこのカードで切って、あとで明細を見て管理するから現金支給はなし、と。現金が必要な支払いもあるし、慌てた私はまだ幼稚園児の子どもを抱えつつ、パートをフルタイムに変更しました。さらに明細を毎日スマホでチェックされるので、ストレスが激増したんです。また携帯代やインフラ周りの引き落としも可能な限りクレジットカードに変更しろと言われて、気が遠くなるほど面倒な作業でした。そしてついに生活費はマイル支給になってしまいました」

佐和子さんは肩を落とします。そんなふうに一方的にルールを決めて、妻が生活パターンや仕事を変えざるを得ない状況ならば話し合って抗議はしなかったのですか? と尋ねると、「モラハラという言葉がありますが、落ち着いて考えるとそういうところがある人で。とにかく言い出したら聞かないし、大した学歴も職歴もない私のことを相当下に見ているので、常に話し合いというよりも決定事項の伝達、という感じです」と佐和子さん。

話し合いが成立しない状況は健全とは言えません。結局生活費や子どもたちの塾代は佐和子さんが稼ぎ、それは今やマイルで支給されている生活費を相当上回っているものの、武志さんは素知らぬふりだといいます。