要介護認定を受けるほどではない人向けの支援とは


相談者の美沙子さんがご友人に紹介されたという松戸市の高齢者向け事業は、「介護予防・日常生活支援総合事業」(通称・総合事業)のことではないでしょうか。

美沙子さんのご両親のように、高齢者だけで暮らす世帯も多くなり、要介護認定を受けるほどではないけれど、何かしらの支援を必要とする高齢者が増えています。このような方々は、訪問介護や通所介護といった介護保険サービスそのものよりも、買い物や掃除などの生活支援や健康増進、社会参加も兼ねた体操教室などへの参加を希望するケースもあります。

そのため、市区町村が主体となって、NPO法人やボランティアなど地域の団体を活用し、高齢者のニーズに合わせてさまざまなサービスを提供できるように、介護予防事業の見直しがされました。

 


要介護認定申請なしで介護予防サービスを利用できる「総合事業」


2015年の介護保険改正では、高齢者が要介護状態にならないよう、総合的に支援する「介護予防・日常生活支援総合事業」(通称・総合事業)が創設されました。それまでの介護予防事業は、介護認定申請で非該当(自立)と判断された人が対象でしたが、総合事業では要介護認定の申請をしなくても介護予防サービスを利用できるようになったのです。これは大きな変化です。

その内容は、訪問型サービスや通所型サービスなどを利用できる「①介護予防・生活支援サービス事業」と介護予防に取り組む「②一般介護予防事業」の2つに分けられ、それぞれ対象者が異なります。

 

これらは介護保険制度内の事業ですが、全国一律の介護保険サービスとは異なり、各市区町村が主体となって行う地域支援事業なので、運営基準や単価、利用料は、各自治体が独自に設定できます。そのため、自ずと地域差は出てきます。


全国に広がるさまざまな取り組み


地域住民の協力なくしては成り立たない総合事業。苦労する自治体も多い中、成功している自治体もあります。先ほど話題に出た松戸市を含め、積極的に総合事業を進めている自治体をいくつか紹介しましょう。

【千葉県松戸市】松戸市では、介護予防の推進を目的とした住民主体型の「元気応援くらぶ」を展開しています。現在、市内90箇所で開設され、介護予防に関するさまざまな活動が行われています。市内には2023年11月時点で175のシニアクラブがあり、会員数は約6300人。高齢者が外出するきっかけになればと、情報誌の『るるぶ』が特別編集した『いきいき松戸市』なるものまで発行しています。

【熊本県御船町】
御船町では、地域住民による介護予防サポーターの育成を全国に先駆けて始め、2020年度時点で400人のサポーターが登録。口腔機能の向上や栄養改善を図る「いきいきトレーニング教室」「元気クラブ」などを実施しています。さらに運動指導士や歯科衛生士、保健師、栄養士などの専門家が支援や指導を行い、元気に暮らすための生活のコツを学べる「元気が出る学校」も展開。介護認定率を抑えることにも成功しています。

【山梨県北杜市】
北杜市では、元気な高齢者を増やし、高齢者が活躍できる地域づくりを目指して「高齢者通いの場」の活動を支援しています。2022年1月時点で62の通いの場がありますが、さらにその場を増やすべく、「立ち上げ・運営ガイドブック」を作成。ガイドブックを参考に、新規で立ち上げる団体も増えています。