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このところ世界のあちこちで、苛烈な競争社会に「疲れた」と感じる人が増えているようです。ここ20年の間に経済のグローバル化とIT化が進展したことで、多くのことが便利になりましたが、いつも何かに追われているような感覚を持つ人も少なくありません。一部の論者は世界経済は大きな転換点を迎えていると指摘していますが、果たして現代社会はこれからどう推移していくのでしょうか。

 

今、米国では日本企業による買収が大きな政治問題となっています。日本製鉄は米国の伝統ある製鉄会社USスチールの買収を試みているのですが、この買収に対して、トランプ前大統領とバイデン大統領という、大統領選を争うと予想される2人が共に反対の意向を表明したのです。

大統領選挙の最有力候補2人が揃って、外国企業(日本企業)による買収に反対を表明している背景には、米国社会の急速な内向き化があるといわれています。

米国社会は自由競争を是としており、外国企業であれ、自国企業であれ、徹底的に競争することを大前提としてきました。外国企業による買収に抵抗感があったとしても、弱くなった企業が買収されてしまうのはやむを得ないことだと多くの米国人は考えていました。それは自由競争のメリットがデメリットを大きく上回るという共通認識があったからです。

しかし、ここ10年で米国民の感情は大きく変化しました。あまりにも競争が激しく、成功者とそうでない人の格差が拡大したことで、競争社会のメリットを感じられない国民が増えてきているのです。

米国では若い世代を中心に、まとまったお金を貯金した後は、働くことをやめ、コンパクトで持続可能なスローライフを目指す「FIRE(Financial Independence Retire Early)」と呼ばれるムーブメントが活発になっています。政治的意識が高い若者の中には、資本主義を否定し、社会主義的な政策にあこがれる人も増えているようです。ビジネスでの成功を是とする米国社会においてスローライフや社会主義が流行するというのは、よほどの事態といえるでしょう。

一方、中高年以上の労働者の中には、すべてがグローバル化、IT化していく現状に疲れ、保護貿易的な自国中心主義を強く望む人が増えています。外国で作った方が効率がよい製品をわざわざ自国で生産すれば、経済効率が悪くなり、モノの値段も上がっていきます。それでも、こうした人たちは、自国で生産できるモノは自国で生産し、多くの労働者があわただしく何かに追われる生活から脱却したいと考えています。

こうした動きはアジアでも見られます。

 
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