浮かぶ疑問
結局、大手塾に通うのは2年生からにすることにした。それで間に合う、と思えたからじゃない。その前にやらなきゃならないことがたくさんあるとわかったから。計算や漢字の反復、思考力系の問題、難解な理科や社会の下地になる実体験や興味の構築。
小学校受験のために身につけた知識はもちろん無駄にはなっていない。そのことがわかってホッとしたけれど、計算力など直接中学受験に役立つ学力はまったく足りない。
理科の実験教室と、算数計算の教室、スイミング、書道を新しく始めて、受験のためにお休みしていたピアノと英語は再開した。しっかり準備して、中学受験塾は最初から一番上のクラスで始められるようにしなくちゃ。
――優也の小学校で、中学受験する子っているのかな? せっかく入った私立だし、高校までエスカレーターでいけるから、きっとほとんどいないよね……。
バザー準備で楽しそうにしていたお母さんたちを思い浮かべて、後ろめたい気持ちが湧いた。たった数時間一緒にいただけなのに、なんだか寂しいような、裏切ったような気持ち。
皆さん、いいひとだったな……。私のテンションがあまり高くないことにきっと気づいただろうに、踏み込み過ぎずにいてくれた。
きっと優しくて、いいお母さんたちなんだ。おおらかなあの小学校の校風をいいなと思って集まったひとたち。きっと私みたいに他人の評価を気にしすぎることも、そのせいで自分の子どもの受験の結果を受け入れられずに苦しむようなこともないんだろう。
――私はこのまま、6年間も暗い気持ちで過ごすの? せっかく受験が終わって、優也が元気でいてくれて、小学生になれたのに?
そのことを単純に悔しいと感じた。外は初夏の風が吹き始めている。私は何と戦って、こんなに傷ついているんだろう。直視してこなかった痛みの原因を、静かに考え始めていた。
ハンバーグの夜
「ママ、明日のバザーってさ、ママも来る……?」
お夕飯のハンバーグに半熟目玉焼きを乗せていると、優也がオープンキッチンのカウンターから身を乗り出してきた。
「もちろん! お母さんたちみんなで、今一生懸命準備してるからね。ポップコーンとクッキーのお店も出すよ」
私は帰宅が遅くなる夫のハンバーグにラップをかけながら優也の顔を見た。私の言葉をきいて、優也はぱあっと笑顔になる。
「よかった~来てくれるんだあ、安心した! ママ、うちの学校好きじゃないから、来てくれないと思った。僕たち、よくそういう話するんだよ。よそを落っこちたからこの学校にきた僕みたいな子、結構いるんだ。そういう子のママは、もしかしてバザーきてくれないかもなって」
「え……?」
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