エッセイスト・小島慶子さんが夫婦関係のあやを綴ります。

赤子のために結婚を維持…夫婦ってはた目には滑稽な地獄絵図かもしれない。【小島慶子】_img0
 

「小島さん、愛ってなんだと思いますか?」
ある講演会の質疑応答でそう尋ねられた。その講演会の聴衆は仏教に関心のある人々だった。どういうわけかそこで私がお話をするご縁に恵まれたわけだが、最後にそのような質問をしてくれた方がいたのだ。その人なりの理由もあったのかもしれない。

 

「愛ですか。ちなみに私は現在、講談社ミモレというweb媒体で『愛夫記』というエッセイを絶賛連載中でして」とすかさず告知をしつつ、私はおおよそこんなふうに答えた。
「私にとって愛は、思っていたよりも凄まじいものでした。愛とは、人と関わってしまうことではないでしょうか。関わるって大変なことですね。家族でも連れあいでもそうですが、私の場合は諦めが悪くて、しんどくても関わらずにいられない、関わってしまったからには関わり倒したいという気持ちがあるものですから、厄介なのです。まあそういうのを執着というのかもしれませんけれど」

あなたは「愛ってなんだと思いますか」と人に尋ねたことがあるだろうか。誰かに尋ねられたことがあるだろうか。一体なんて答える?

赤子のために結婚を維持…夫婦ってはた目には滑稽な地獄絵図かもしれない。【小島慶子】_img1
写真:Shutterstock

20年前、私は夜中に赤子を抱いて泣きながら、夫に「これが愛じゃなかったら何なんだよ」と言った。死にたい気持ちで心底そう思ったのだ。これが愛じゃなかったらなんなんだよ。私をめちゃくちゃに壊した相手に向かって、どうしてそんな気持ちになったのか。