ヴィオラを演奏する仲間との出会い
お話をオックスフォード大学留学のころに戻しましょう。
ある日、ホールで朝食をとっているときに隣になった学生が音楽を専攻していると聞き、浩宮さまはおそるおそる「自分もヴィオラを弾くので、室内楽をやらないか」と伝えます。するとその学生は二つ返事で仲間を集め、カルテットができたのです。第一と第二バイオリン、チェロに浩宮さまのヴィオラです。ハイドンの「ひばり」「五度」「鳥」をはじめ、モーツァルトやベートーヴェンの作品を演奏して楽しみました。
このカルテットは、何度か演奏会を行いました。一度目はドヴォルザークの弦楽四重奏曲「アメリカ」を演奏。演奏の前にバイオリンの学生が、
「このメンバーはイギリス人と日本人からなっています。したがって、今日はそのどちらでもない『アメリカ』を演奏いたします」
と言った言葉が、浩宮さまはのちになっても忘れることができませんでした。
また、大学生の自治会のLCR(ジュニア・コモン・ルーム)主催のコンサートにも、ヴィオラ奏者として参加されました。曲目はモーツァルトの「ケーゲルシュタット・トリオ」。会場は満席で、コンサートが無事終わると「何ともいえないよい気分」な浩宮さまでした。
1985年9月、帰国を翌月に控えた浩宮さまのために、バッハ・コレギウム東京・日本オラトリオ連盟がお別れコンサートを開きました。会場はオックスォードの由緒あるセント・モードレン教会です。ヘンデルの作品や、「グリーン・スリーヴズによる幻想曲」、フルートとハープの独奏による「春の海」などを演奏。最後に「蛍の光」が流れると、燕尾服姿の浩宮さまに別れの花束が贈呈されたのです。
浩宮さまは、留学の間にヨーロッパ各地を旅行され、オーストリアのザルツブルグでモーツァルトの生家を、ドイツのボンではベートーヴェンの生家を訪問されました。さらに、ウィーン郊外のベートーヴェン・ハウスでウィーン・フィルハーモニーの人々と合奏されました。
浩宮さまは、インタビューにこう話されています。
「2年間の留学生活の中でいちばん成果があったのは、ヨーロッパの音楽を生で感じられたことです。一番印象に残っているのは、ザルツブルグ音楽祭に行けたことです。
カラヤン指揮のリヒャルト・シュトラウスの「薔薇の騎士」、英国コベントガーデンのオペラ劇場で観たロッシーニの「シンデレラ」、アマデウス・カルテットもよかったし、エリザベート音楽コンクールに日本人が夜中の1時ごろまでシベリウスの曲で参加しているのを応援しました。オペラは本場ミラノのスカラ座で「カルメン」を観たのが、非常に収穫でした」
浩宮さまは、「おそらく私の人生にとって最も楽しい」(『テムズとともに――英国の二年間』終章より)ひとときを過ごされたのです。
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