人気ドラマのタイトルとしても知られる“逃げるは恥だが役に立つ”という言葉。これは、ハンガリーのことわざで、「置かれている場所にしがみつくのではなく、戦う場所を自分で選べ」という意味が込められているといいます。『虎に翼』(NHK総合)の梅子(平岩紙)が選んだ結末は、この“逃げるは恥だが役に立つ”を体現していたように感じました。
遺産争いの場においての“勝ち”というのは、しっかりと財産を手にいれること。もちろん、梅子も遺産のためだけに夫の面倒を見てきたわけではないのかもしれませんが、離婚を考えるほどに憎んでいたわけだし、何の見返りもないのは、やっぱりおかしい。わたしが梅子の立場だったら、何がなんでも遺産を手に入れていたと思います。大庭家を出て、人生をやり直すにしても、お金が必要だしもらえるものはもらっておいた方がいい!
ただ、大庭家には自分勝手な人が多すぎるんですよね。長男と次男は、「母さんは相続を放棄しろ」とか言い出すし、梅子の心の支えだった三男は父親の愛人とできていた……という意味の分からない展開に。三男に関しては、可哀想なお母さん(=梅子)をずっと見てきたせいで、可哀想をちらつかされるのに弱いんだろうけど、それにしても正気の沙汰ではない。
このとき、多くの視聴者は思ったはずです。梅子よ、遺産をがっぽり勝ち取ってくれ。これ以上、こんな奴らの多いどおりにされるなんて、たまったもんじゃない。むしろ、一円たりとも渡さない方がいいのでは? と。
しかし、梅子は“負け”を選びました。「──もうダメ、降参。白旗を振るわ」と、遺産をすべて放棄したんです。「相続分の遺産も、大庭家の嫁も、あなたたちの母としての務めも、全部捨ててわたしはここから出て行きます」。そう言って、「ごきげんよう!」と立ち去った梅子の表情は、晴れ晴れとしていて、これが“逃げるは恥だが役に立つ”ということなんだな……と。
梅子は、遺産相続の争いにおいては負けたし、大庭家からも逃げた。でも、人生という大きな括りで考えると、負けたわけじゃない。もしも、遺産をもらっていたら、大庭家のしがらみから逃れることができずに、大嫌いな義母の介護をする羽目になっていたかもしれません。そして、わがままな息子たちに振り回され、スンっと耐えなければならない日々が続いていく。そう考えたら、ここで負けを認めて逃げたことは、むしろ勝ちだった。というか、自由になった梅子なら、きっと勝ちにすることができるはず。
7月1日放送の第66話では、名字を「大庭」から旧姓の「竹原」に戻し、甘味処『竹もと』で働き始めた梅子の姿が描かれていました。これから、法の道に進むのか。それとも、食の道を切り開いていくのかは分かりませんが、戦う場所を自分で選んだ梅子には、今まで以上に幸せな日々が待っていると思います。
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