家でTVを見ている人と、パソコンで調べ物をしている人の違いは?


一方で、こんな興味深いことを示した研究(参考文献2)もあります。同じ「家から出ない生活」でも、その時間の使い方によって、認知症リスクが変わってくるというのです。この研究では、家から出ない生活を、TVを見ているというような「受け身」の生活とパソコンを使って仕事をするような「能動的」な生活で分類していますが、前者では認知症リスクの増加と関連が見られたものの、後者では逆に認知症リスク減少との関連が見られました。

確かに、ぼーっと自宅でテレビを見ているのと、パソコンを使って調べ物をしたり勉強をしたりしているのとでは、脳の使い方が大きく違いそうですし、合点がいきますよね。このように、もしかするとただ「座る時間が長い」ではまとめられず、「座って何をしているのか」も重要なのかもしれません。

「家から出ないで座っている」と脳に悪影響が。さらに長時間コレをしていたら、認知症リスクは増加!【山田悠史医師】_img0
写真:Shutterstock

しかしいずれにせよ、座る時間の長い生活は、頭を使うかどうかに関わらず、認知機能の悪化につながるような様々な慢性疾患(例えば、高血圧や糖尿病など)の発症リスクとの関係も切っても切り離せません。長時間座っていることで、糖質や脂質の代謝が悪くなり、これが認知症のリスクを高める可能性があるのです。

また、炎症も認知症のリスク要因の一つですが、座りがちな生活はこの炎症を引き起こしたり悪化させたりする可能性があると考えられています。(参考文献3、4)。「炎症」と言われてもわかりにくいかもしれませんが、たとえば、風邪をひいた時に喉が痛くなるのは、ウイルスの感染によって喉の粘膜に炎症が起こるからです。これと同じようなことが座る時間が長い生活をしているだけで、脳の中で起こってしまうというわけです。

 


脳の健康を維持することは、庭の手入れのようなもの


そう言われてもあまりピンとこないかもしれませんので、私たちの脳を庭に例えて考えてみましょう。あなたの自宅の庭に綺麗な花が咲いていたとしましょう。しかし、庭の植物に水や栄養を定期的に与えないと、徐々に枯れていってしまいますよね。同じように、長時間座る生活では、脳に十分な栄養が行き渡らず、脳の機能低下につながる可能性があるというわけです。

また、手入れをしない庭では、害虫が発生して植物にダメージを受けたり病気にかかりやすくなったりします。同じように、体の手入れをサボって座る時間が長くなると体内の炎症を引き起こして、脳にダメージを与える可能性があります。

さらに、植物は適度な日光を浴びることで健康に育ちます。しかし、常に日陰にあると、たまに日光に当てただけでは十分に育たないでしょう。同様に、家にこもった生活をしていると、たまに運動をしたとしても、その良い効果が十分に得られない可能性があります。

このように、適度な手入れをすることで植物が健やかに育つように、適度な運動や活動的な生活習慣によってこそ、脳の健康が維持され、認知症のリスクを下げることができるのではないかと考えられているのです。座りがちな生活は、いわば庭を放っておくようなもので、長期的には脳の健康にも悪影響を与える可能性があります。