「専業」は難しい。待遇面の改善が急務


これからますますニーズが高まりそうなインティマシー・コーディネーターですが、西山さん曰く、日本では専業で生計を立てるのがまだまだ難しい現状だそうです。関わるのがごく一部のシーンであるというのと、まだ海外のようにガイドラインが明確に作られているわけでもなく、整備がこれからという理由もあるようです。西山さんも、ロケ・コーディネーターという仕事をする傍ら、インティマシー・コーディネーターの仕事を請け負っています。

また、前貼りのクオリティをあげるために、必要な衣装道具を買いそろえ、試すということを繰り返しているそうですが、道具を買いそろえる経費はどこにも請求できないため、西山さんが自腹を切っているのだと言います。日本でインティマシー・コーディネーターが定着していくためには、待遇面の改善も必要です。
 

 


労働環境、人権意識、モラル…映像業界の問題は山積み

明確かつ積極的なYES以外は「合意」ではない。性的シーンの撮影で俳優を支える、インティマシー・コーディネーターの役割_img0
 

この本の中で大部分を締めているのが、映像業界の劣悪な労働環境の問題、さらに人権意識の欠如についての言及です。

そもそも、“圧倒的な男性優位社会”(たとえスタッフに女性がいたとしても、意思決定層が男性で占められている)であること、他にもお金の話をしないことがよいことだとさていること、予算が少なく余裕がない体制で制作が進められていくことなど、問題は山積しているようです。

例えば、事前に金額が提示されず、仕事が終わってからギャラを知る、営業補償という考えが薄く、一方的に依頼をキャンセルされ、見込んでいた報酬が受け取れなくなる、仕事が終わったあとにギャラを値切られる、さらにギャラの未払いが起こる、といったことが日常茶飯事だと言います。西山さんは、海外ではストライキが当たり前に起きる一方で、日本では権利を求め要求する文化が希薄であることを指摘しています。

労働環境の問題だけでなく、メディアの倫理観やモラルについても指摘されています。例えば、番組の中でこれは放送したらまずいのではないか、という内容を指摘したことが何度もあったそうですが、深刻に受け止めてもらえなかったそうです。
 


そんな時は決まって「過敏すぎる」とか「目くじらを立てすぎる」などと言われ、締めとして「そんなことを言われたら番組で何も言えなくなるよ」と返されるのが定番となっています。